ベティ・フリーダン

ベティ・フリーダン：第二波フェミニズムの旗手

ベティ・フリーダン(1921年-2006年)は、20世紀における最も重要なフェミニストの一人として知られています。彼女の1963年の著作『女らしさの神話』(邦題『新しい女性の創造』)は、アメリカ社会に衝撃を与え、第二波フェミニズム、いわゆるウーマンリブ運動の火付け役となりました。本書は、郊外の専業主婦として暮らす女性たちが抱える抑圧や不満、自己実現への渇望を鮮やかに描き出し、多くの女性たちの共感を呼びました。

生い立ちと教育

イリノイ州ピオリアでロシア系ユダヤ人移民の父と、地方紙の女性欄編集委員であった母の間に生まれたフリーダンは、幼少期から知的刺激を受け、スミス・カレッジで心理学を専攻し、最優等で卒業しました。その後、カリフォルニア大学バークレー校で発達心理学者エリク・エリクソンの指導の下、心理学研究を続けました。しかし、博士課程への進学を前に、交際相手からの反対で断念せざるを得ませんでした。この経験は、のちに彼女のフェミニズム思想に大きな影響を与えたと考えられています。

ジャーナリストとしてのキャリア

学業を中断した後、フリーダンはニューヨークでジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせます。労働組合の機関紙などで編集委員や記者として働き、社会問題や女性の生き方について鋭い視点で記事を執筆しました。1947年、舞台演出家のカール・フリーダンと結婚し、三人の子供をもうけました。しかし、子育てを機に仕事を辞め、フリーランスライターとして活動を始めます。

『女らしさの神話』とウーマンリブ運動

フリーダンは、スミス・カレッジの同窓会で、多くの同級生が郊外の専業主婦として、社会から孤立し、不満を抱えていることを知ります。この出会いが、彼女を『女らしさの神話』の執筆へと導きました。5年にわたる綿密な調査と取材を通して、フリーダンは、高度な教育を受けた女性たちが、社会の期待に応えるかたちで家庭に入り、自己実現を阻害されている現状を明らかにしました。

この本は、アメリカ社会における「女性らしさ」という神話、そしてその欺瞞を鋭く批判し、女性たちに家庭の外で自分自身を見つけることを促す内容でした。多くの女性たちの共感を呼び、ベストセラーとなり、世界各国で翻訳出版されました。

『女らしさの神話』は、アメリカにおける第二波フェミニズムの勃発に大きな影響を与えました。1966年、フリーダンは他のフェミニストたちと共に全米女性機構(NOW)を設立し、初代会長に就任。平等な雇用機会、賃金、昇進、そして中絶の合法化などを訴え、政府への働きかけを積極的に行いました。

後年の活動と批判

NOWでの活動に加え、フリーダンは、高齢者の生き方に関する著作を発表するなど、幅広く活動しました。しかし、彼女自身の考え方の変化や、他のフェミニストとの意見の相違から、批判を受けることもありました。特に、「家族の再建」を主張したことで、ラディカルフェミニストやレズビアンからの批判を浴び、フェミニズム運動から距離を置くようになりました。彼女の活動は、白人中産階級の既婚女性に焦点が当てられていたという批判もありました。

死後

2006年、85歳の誕生日を迎え、フリーダンは心臓不全で亡くなりました。しかし、彼女の残した思想と活動は、現代のフェミニズム運動に大きな影響を与え続けています。彼女の功績は、現代の女性たちの権利と地位向上に貢献しただけでなく、社会全体におけるジェンダー問題への意識を高める上で重要な役割を果たしました。

著書

『女らしさの神話』(The Feminine Mystique, 1963)
『女の新世紀へ ― アメリカ女性運動の記録』(It Changed My Life: Writings on the Women's Movement, 1976)
『セカンド・ステージ ― 新しい家族の創造』(The Second Stage, 1981)
『老いの泉』(The Fountain of Age, 1993)
『ビヨンド・ジェンダー ― 仕事と家族の新しい政治学』(Beyond Gender, 1997)
『これまでの人生』(Life So Far, 2000)

受賞歴

1975年 スミス大学名誉博士号
1975年 ヒューマニスト・オブ・ザ・イヤー
1979年 モート・ワイジンガー賞
1985年 ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校名誉博士号
1989年 エレノア・ルーズベルト・リーダーシップ賞
1991年 ブラッドリー大学名誉博士号
1993年 全米女性の殿堂入り
1994年 コロンビア大学名誉博士号
* 2014年 グラマー誌「過去75年間で最も重要な75人の女性」選出

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