ベティ・ブルー

ベティ・ブルー 愛と激情の日々

『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』（原題：37°2 le matin）は、1986年にフランスで公開された恋愛映画の傑作。監督はジャン＝ジャック・ベネックスが務め、フィリップ・ジャンによる同名小説を基に脚本も手掛けた。この作品は、女優ベアトリス・ダルの記念すべきデビュー作であり、その後の代表作としても広く知られている。本能と衝動に突き動かされる二人の激しい関係を、余すところなく描き出す。その衝撃的な描写と、見る者の心を掴んで離さない鮮烈な映像美は、公開と同時に大きな話題を呼び、パリを皮切りに世界各国で異例のロングランヒットを記録した。また、その大胆な表現から、後の映画ランキングでも重要なセックスシーンを含む作品として挙げられることもある。

物語のあらすじ

物語は、海辺の片隅で孤独に暮らす作家志望のゾルグ（ジャン＝ユーグ・アングラード）のもとに、突如現れた謎めいた若い女性、ベティ（ベアトリス・ダル）が転がり込んでくるところから始まる。彼女は官能的でありながらも無邪気さを宿し、何にも縛られない奔放さを持っていた。瞬く間に互いに強烈に惹かれ合った二人は、社会の規範から解き放たれたかのように、ひたすら愛し合い、刹那的な快楽に溺れる日々を送る。

しかし、単調な雑務をこなして糊口をしのいでいたゾルグは、家主から膨大な数のバンガローのペンキ塗りを命じられる。当初は楽しんでいたベティだったが、その途方もない作業量を知ったベティは激しく憤慨し、感情を爆発させて家主の車にペンキを投げつける。さらに、家主に従順なゾルグへの不満から、衝動のままに家中の家具や持ち物を窓から投げ捨てる。その騒動の中、ベティはゾルグが秘かに書きためていた小説の原稿を見つける。ベティはその小説の才能に心酔し、ゾルグを偉大な作家として盲目的に信奉するようになる。ゾルグ自身も、彼女との出会いによって人生が動き始めたと感じる。ゾルグと家主の口論の末、遂には家主を二階から突き落とすという行動に出る。そして、燃え盛る怒りを抑えきれず、家に火を放ち全てを焼き尽くしてしまう。

全てを失った二人は、ベティの友人を頼ってパリへ逃れる。リサの家に身を寄せながら、ベティはゾルグの小説を出版社に送り付けるため、献身的にタイプを打ち続ける。生活のため、二人はリサの恋人エディが経営するピザ屋で働くことになるが、ここでもベティの異常な行動は繰り返される。些細なことからヒステリーを起こし、客にフォークを突き立てる事件を起こす。

ゾルグの小説に対し、ある出版社から返事が届くが、それは彼の作品を酷評する非情な内容だった。これに激怒したベティは、担当編集者の自宅に乗り込み、暴言を吐き、傷を負わせる。訴えられたゾルグは編集者を脅迫し、告訴を取り下げさせる。その後、エディの母の訃報を機に、今度はエディの故郷へ移り住み、ゾルグはピアノ店を営むことになる。しかし、この頃からベティの精神は徐々に均衡を失い始め、奇行や自傷行為などが目立つようになる。

ゾルグはベティの気を紛らわせようと、誕生日プレゼントの車で広大な草原へのドライブに連れ出す。そこでベティの20歳の誕生日を祝い、二人は永遠の愛を誓い合う。しかし、二人の関係に暗い影は忍び寄っていた。激しい喧嘩を繰り返したり、ベティの行動はますますエキセントリックになる。やがてベティは妊娠を告げるが、その後の検査で妊娠が偽りだったと判明すると、子供を待ち望んでいたベティは激しい絶望に襲われ、精神状態はさらに悪化する。ただただ泣き続けるベティに対し、ゾルグはなす術もなく抱きしめることしかできない。ゾルグはベティのため、自暴自棄になり危険な犯罪にも手を染める。さらにベティは海岸で幼い子供を連れ去ろうとするなど、常軌を逸した行動が続く。遂には自身の目を抉るという凄惨な自傷行為に及ぶ。

ベティは病院に収容されるが、もはや会話もままならない、生気のない状態になっていた。時を同じくして、ゾルグの新しい小説に出版社から契約の連絡が入る。この朗報をベティに伝えようと病院へ駆けつけるゾルグだったが、彼女はベッドに拘束され、植物状態に近い有様だった。病院側に不信感を抱き、ベティをこのままにしておけないと考えたゾルグは、ある悲痛な決断を下す。深夜、病院に忍び込んだゾルグは、昏睡状態のベティに語りかけ、かつての二人の愛を思い返した後、彼女の苦痛を終わらせるべく、自らの手でその命を絶つ。雨の降りしきる中、深い悲しみを抱きながらゾルグは一人、街を去っていく。

物語の最後、ゾルグはベティとの思い出の写真を見つめながら、再び原稿に向かう。その耳に、今は亡きベティの声が響く中、彼は静かにペンを走らせる。

その他

本作は公開後に未公開シーンを加えて長時間化した「インテグラル版」が製作された。また、日本公開時には猥褻描写とみなされ修正が加えられたが、後に監督の意向を尊重する形で一部無修正の「ノーカット完全版」DVDも発売されている。原題である「37°2 le matin」は、基礎体温が通常よりわずかに高い状態を指し、新しい生命の予感や不安定な精神状態を示唆しているとされる。

スタッフ

監督・製作・脚本：ジャン＝ジャック・ベネックス
製作：クローディ・オサール、ジャン＝ジャック・ベネックス、カルゴ・フィルム
原作・脚本：フィリップ・ジャン
撮影：ジャン＝フランソワ・ロバン
音楽：ガブリエル・ヤレド

キャスト

ベティ：ベアトリス・ダル
ゾルグ：ジャン＝ユーグ・アングラード
エディ：ジェラール・ダルモン
* リサ：コンスエロ・デ・ハヴィランド

もう一度検索