ベノニ・ディフェンス

ベノニ・ディフェンス (Benoni Defense)

ベノニ・ディフェンスは、チェスのオープニングの一つで、クイーンポーン系に分類されます。同じくクイーンポーン系のキングズ・インディアン・ディフェンスと類似した局面が現れることがあります。このオープニングには、主に「オールド・ベノニ・ディフェンス」と「モダン・ベノニ・ディフェンス」という二つの主要な系統があり、それぞれで基本となる駒組みが異なります。特にモダン・ベノニは、かつて世界チャンピオンであったボビー・フィッシャーが黒番で好んで採用したことで知られています。

オールド・ベノニ・ディフェンス (Old Benoni Defense)

オールド・ベノニ・ディフェンスの最も一般的な開始手順は 1. d4 c5 です。ここから基本形へと進みます。白が2手目でポーンを取る 2. dxc5 は、黒が後続の手順 ...e6 に続いて ...Bxc5 とポーンを取り返すことが容易であり、白に有利な状況が生まれないため、通常は避ける選択肢となります。そのため、白の2手目としては 2. d5 とポーンを突き出す手が定跡とされています。

典型的な基本形以降の進行として、以下のような手順が挙げられます。 2. d5 e5 3. e4 d6 4. Nc3 g6 5. f4 exf4 6. Bxf4 Bg7 7. Nf3 Nf6 8. Bb5+ Bd7。この局面は白がセンターにポーンを並べ、黒がキングサイドのフィアンケットを目指す特徴的な形となります。

白の4手目には、4. Bd3 や 4. f4 といった別の選択肢も存在します。一方、黒の4手目として 4. ... a6 と指す変化もあります。この場合、5. a4 g6 6. h4 h5 7. Nf3 Bg4 8. Be2 Bxf3 9. Bxf3 Nd7 10. a5 Bh6 のようにゲームが進むことがあります。また、4. ... Ne7?! という手は疑問視されており、1962年のドナー対バレセロスキー戦では、この手を選んだバレセロスキーが序盤で不利となり、わずか16手で投了に至った例があります（進行例: 5. Nf3 Bg4 6. h3 Bxf3 7. Qxf3 a6 8. a4 Ng6 9. g3 Be7 10. h4 O-O 11. Bd2 b6 12. Nd1 Nd7 13. Ne3 Nf6 14. h5 Nh8 15. Nf5 Ra7 16. h6!）。

白の5手目 5. f4 の代わりに 5. Nf3 と指した場合、黒は 5. ... Bg7 6. Be2 Ne7 7. Nd2 Na6 8. Nc4 Nc7 9. a4 O-O と応じることができ、黒にとって十分に戦える局面が生まれると評価されています。

モダン・ベノニ・ディフェンス (Modern Benoni Defense)

モダン・ベノニ・ディフェンスは、1. d4 Nf6 2. c4 c5 という手順で始まる局面が基本となります。この後、3. d5 e6 4. Nc3 exd5 5. cxd5 d6 と進むことで、モダン・ベノニの典型的な基本形が完成します。ただし、2手目から4手目にかけての手順は前後することもあり、同じ基本形に別の指し方で到達することも珍しくありません。

白の3手目は、オールド・ベノニと同様に 3. d5 とポーンを突き出すのが一般的な定跡です。白がポーンを取らずにスペースを確保することで、黒はセンターのポーン構造に特徴的な非対称性を持つことになります。ここで黒が 3. ... b5 と指すと、有名なベンコー・ギャンビットへと変化します。

白が基本形に至るまでの4手目で 4. dxe5 とポーン交換を選択した場合、黒は 4. ... fxe5 と応じ、その後の駒組みでセンターにポーンを出しやすくなり、非常に良い形を築くことができるとされています。また、黒の5手目 5. ... d6 の代わりに 5. ... g6 と指す変化も存在します。これに対して白が 6. d6 とポーンを突き出すと、黒の展開を遅らせる代償として白がポーンを損する進行になります（例: 6. d6 Qb6 7. Bg5 Nh5 8. Nf3 f6 9. Be3 Bxd6）。

基本形（1. d4 Nf6 2. c4 c5 3. d5 e6 4. Nc3 exd5 5. cxd5 d6）からの標準的な定跡手順は以下のようになります。6. Nf3 g6 7. e4 Bg7 8. Be2 O-O 9. O-O a6 10. a4 Bg4 11. h3 Bxf3 12. Bxf3 Nbd7。この進行では、黒はクイーンサイドのポーンを進めつつ、キングサイドの駒を展開し、白との複雑な主導権争いが行われます。

白の6手目 6. Nf3 の代わりに 6. g3 と指すと、「フィアンケット・システム」と呼ばれる変化に入ります。また、6. e4 と指した場合、黒は定跡通り 6. ... g6 と続けますが、その後の白の選択によって展開が分かれます。白が 7. Nf3 と指せば手順前後で上記の標準定跡に合流しますが、7. Bd3 と指すと 7. ... Bg7 8. Nge2 O-O のように進行します。この 6. e4 g6 7. Bd3 Bg7 8. Nge2 O-O という変化は、1960年のライプツィヒ・オリンピアードにおけるペンローズ対タリ戦で現れ、当時世界チャンピオンだったタリがペンローズに敗れた一局として知られています。

白の7手目としては、7. Bf4 や 7. Nd2 といった手も試みられています。7. Nd2 と指した場合、7. ... Bg7 8. Nc4 O-O 9. Bf4 Ne8 のような進行例があります。さらに、7. Bg5 と指す変化は「ウルマン・ヴァリエーション」と呼ばれ、以下のように大胆なキングサイドの戦いとなることがあります。7. ... h6 8. Bh4 g5 9. Bg3 Nh5 10. e3 Nxg3 11. hxg3 Bg7 12. Nd2 O-O。

フィアンケット・システム (Fianchetto System)

フィアンケット・システムは、モダン・ベノニ・ディフェンスにおける主要な変化の一つです。これは、白の6手目で 6. g3 と指すことによって始まります。白はキングサイドにビショップをフィアンケットすることで局面を安定させようとします。

黒の6手目以降の一般的な定跡手順は、以下のようになります。6. ... g6 7. Bg2 Bg7 8. Nf3 O-O 9. O-O Qe7 10. Nd2 Nbd7 11. Nc4 Ne5 12. Nxe5 Qxe5 13. a4 a6。白はナイトをc4に配置して黒のナイトと交換し、黒はクイーンサイドでポーンの連携を築こうとしています。

白の8手目において、8. Nh3? のようにナイトを盤端に展開する手は、ナイトがセンターから離れてしまうため悪手と評価されています。

黒の9手目 9. O-O の後、9. ... Qe7 に代わる選択肢として 9. ... a6 や 9. ... Na6 があります。9. ... a6 と指した場合の進行例としては、10. a4 Nbd7 11. Nd2 Rb8 12. Nc4 Ne8 13. a5 Ne5 が挙げられます。この進行中に 12. ... Nb6? と指してしまうと、13. Nxd6! Qxd6 14. Bf4 と白にタクティクスを許し、結果として黒はb8のルークを失うことになります。一方、9. ... Na6 と指す変化では、10. h3 Nc7 11. e4 Nd7 12. Re1 のようにゲームが進みます。

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