ベラルーシの国章

ベラルーシ国章：歴史とデザインの変遷

ベラルーシの国章は、円形に配置された小麦の束を主要なモチーフとしています。左側の束にはピンクのクローバー、右側の束には水色のアマが挿され、赤と緑のベラルーシ国旗色のリボンで束ねられています。リボンにはベラルーシ語で「ベラルーシ共和国」と記されています。

国章の中央には、金の輪郭で描かれたベラルーシの国土が配置され、その下からは地球を照らす太陽の光線が伸びています。そして、国章の頂点には赤い星が輝いています。このデザインは、1919年に制定された白ロシア・ソビエト社会主義共和国（白ロシアSSR）の国章に由来しており、ソ連時代の影響を色濃く反映しています。

白ロシアSSRの国章との違いは、赤旗色のリボンが赤と緑の国旗色に変更されたこと、そして「万国の労働者団結せよ」というスローガンが削除され、「ベラルーシ共和国」に置き換えられた点です。中央の鎌と槌も、ベラルーシの国土の形状に変更されています。赤い星などのソ連時代のシンボルは、ほぼそのまま継承されています。

歴史的背景

ベラルーシの人々は独自の民族的アイデンティティと言語を共有していますが、1991年以前は、主権の象徴となる国章は存在しませんでした。ベラルーシの領土は、歴史的にプロイセン、ポーランド、リトアニア、ロシアなどの支配下にあったためです。

例外として、1918年前後に短期間存在したベラルーシ人民共和国は、「パホニア」（Pahonia）と呼ばれる国章を使用していました。これは、赤色の盾の中に、白馬に乗った騎士が描かれた紋章です。パホニアは、リトアニア大公国の国章でもあり、ロシア併合以前の伝統を復活させようとするナショナリズムの表れでした。

ベラルーシ人民共和国が崩壊し、白ロシアSSRが成立すると、ソ連諸共和国と同様の社会主義的な国章が制定されました。1937年と1950年には若干の修正が行われましたが、1991年のソ連崩壊後、一時的にパホニアが復活しました。

しかし、1995年6月7日、アレクサンドル・ルカシェンコ政権下で、現在の国章が制定されました。これは、直前の国民投票の結果を反映したもので、ソ連時代のデザインに似た国章を採用する方向で国民の多数が賛成しました。当時の国営メディアは、パホニアが第二次世界大戦時に対独協力を行ったベラルーシ中央ラーダでも使用されていた点を強調し、ソ連時代の国章への回帰を積極的に宣伝しました。

2021年1月4日には、ルカシェンコ大統領が国章の変更に関する法律に署名しました。この変更では、国章に描かれた地球上の大陸の配置が変更され、ヨーロッパを中心とした表現に変更されました。また、国土の白地図の線が緑から金に変更され、白地図と赤い星のサイズが若干大きくなりました。

国章の使用例

ベラルーシの国章は、政府機関の建物、公式文書、パスポート、貨幣など、様々な場面で使用されています。これは、国家の象徴としての威厳とアイデンティティを強調する役割を果たしています。

まとめ

ベラルーシの国章は、歴史的経緯と政治的背景を反映した複雑なデザインを持っています。ソ連時代の影響を色濃く残しつつ、現在のベラルーシのアイデンティティを表現する重要なシンボルとなっています。そのデザインの変遷は、ベラルーシの歴史と政治的変化を理解する上で重要な手がかりとなります。

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