ベレンティー私設保護区

マダガスカル南東部、年間降水量がおよそ500mmという乾燥した半砂漠地帯に位置するベレンティー私設保護区（あるいは単にベレンティー保護区とも呼ばれます）は、限られた面積の中に極めて多様な自然環境が凝縮されたユニークな自然保護区です。

この保護区の名前である「ベレンティー」は、マダガスカル語のアンタンヂュイ方言において「大きい、多い（Be）」と「ウナギ（Renty）」を組み合わせた言葉に由来するという説があります。乾燥地帯にありながらも豊かな水源の存在を示唆する名前と言えるでしょう。

保護区の地理的特徴は、北から南への環境の変化にあります。北側には、たとえ乾季でも水が涸れることのないマンヂャレ川が流れており、その川沿いにはタマリンドなどが優占するみずみずしい河辺林が広がっています。この河辺林は、多くの動物たちにとって重要な生息地であり、彼らが暑さを避けたり、水を得たりする場所となっています。しかし、マンヂャレ川から南へ離れるにつれて乾燥が進み、植生は徐々に潅木林へと変化します。そして保護区の最南端には、「有刺林」と呼ばれる世界でもマダガスカル南部にしか見られない独特な森林が広がっています。この有刺林は、文字通り鋭い棘を持つ植物や多肉植物が多く見られる極度に乾燥した環境に適応した生態系であり、その景観は他では見られないものです。

ベレンティー私設保護区は、その生態学的な重要性から、長年にわたり学術研究の拠点となっています。今から30年以上前、著名な霊長類学者アリソン・ジョリー博士がここでキツネザル研究を始めたことを契機に、世界中から研究者が集まるようになりました。現在も、日本の京都大学やマダガスカルのアンタナナリボ大学、さらに欧米の多くの大学から研究者や学生が訪れ、この保護区に生息するキツネザル類の生態や行動に関する詳細なフィールドワークが継続して行われています。

保護区の魅力は、その豊かな生物多様性にもあります。特に訪問者を惹きつけるのが、マダガスカル固有のキツネザル類です。人懐こいワオキツネザルや、地上を優雅に跳ねるヴェローシファカは、最もよく知られた存在です。また、ここでは国内移入種であるアカビタイキツネザルとアカエリキツネザルの間で生まれた雑種も観察されることがあります。その他にも、夜行性のシロアシイタチキツネザルや、小型のハイイロネズミキツネザル、セアカネズミキツネザルなど、様々な種類のキツネザルが生息しています。哺乳類としては、マダガスカルオオコウモリなども見られます。鳥類も非常に豊富で、マダガスカル固有のオニジカッコウやハシリジカッコウといったジカッコウ類、特徴的な鳴き声のマダガスカルアオバズクのようなフクロウ類、美しいマダガスカルサンコウチョウなどが人気です。これらの固有の鳥類を観察するために、多くのバードウォッチャーや観光客が訪れています。

ベレンティー私設保護区は、学術研究だけでなく、自然愛好家が訪れるためのインフラも整備されています。保護区内には、宿泊施設やレストランがあり、滞在しながらゆっくりと自然を満喫できます。また、小規模ながら地域の自然や研究について学べる博物館や、様々なコースが設定された動物観察のためのトレイルが整備されており、ガイドと共に安全に散策を楽しむことができます。

ベレンティー私設保護区へのアクセスは、マダガスカル南東部の主要な港湾都市であるトラニャロ（Tolagnaro、旧称フォール・ドーファン）から車を利用するのが一般的です。トラニャロから保護区までは、西へ向かって車で約2～3時間の距離です。保護区への入場や宿泊に関する手配は、トラニャロ市内にあるホテル・ドーファンで行うのが通例となっています。訪問を計画する際は、事前に手配を済ませておくことが推奨されます。

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