ベンジャミン・シアーズ

ベンジャミン・ヘンリー・シアーズ：シンガポールの近代産婦人科の父、そして大統領

ベンジャミン・ヘンリー・シアーズ（Benjamin Henry Sheares, 1907年8月12日 - 1981年5月12日）は、シンガポールの第2代大統領を務めた人物です。彼はシンガポール初の産婦人科医としての顔も持ち、同国の近代産婦人科医療の発展に大きく貢献したことから、「シンガポール近代産婦人科の父」とも称されています。

生い立ちと医学への道

1907年、シアーズはシンガポールで6人兄弟の次男として誕生しました。欧亜混血の家系で、父親はインドに駐屯したイギリス兵士の息子、母親はシンガポール出身でスマトラ育ちの現地人でした。経済的に恵まれない環境の中、シアーズは幼い頃から医師になることを夢見ていました。当時のシンガポールはイギリスの植民地であり、アジア人が医師になることは困難でしたが、彼はその壁に立ち向かうことになります。

1923年、シアーズはキング・エドワード7世医科大学に入学し、医学の道を歩み始めました。学費を工面することが困難だった彼は、大学評議会から奨学金を得て学業を続けました。彼はその奨学金の多くを母親に送金し、家族を支えたといいます。

産婦人科医としてのキャリア

1929年に大学を卒業後、シアーズはシンガポール総合病院（SGH）でアシスタントメディカルオフィサーとして勤務を始めました。その後、大学の産婦人科教授であったイングリッシュ教授の推薦により、1931年から大学の産婦人科とSGHの産科に所属することになりました。1937年からは、Kandang Kerbau Hospital (KKH) の産科病棟を任されることになりますが、彼は自身の希望で、隔月でSGHに戻り、産科医としての臨床経験も積みました。

1939年、シアーズはQueen's Felowshipという奨学金を得て、イギリスへの留学の機会を掴みます。英国王立産婦人科協会の入会試験を受ける予定でしたが、第二次世界大戦の勃発により留学は延期となりました。

1942年2月、シンガポールが日本軍に降伏すると、イングリッシュ教授をはじめとするイギリス人医師たちは投獄されました。KKHは「中央病院」と改称され、日本人とシンガポール人の患者を受け入れる総合病院となりました。シアーズは副院長に任命され、シンガポール人患者の治療責任者となりました。彼はこの機会を利用して、イングリッシュ教授が反対していた子宮下部帝王切開という新しい術式を導入しました。

戦後の活躍と大学教授就任

1945年、シンガポールがイギリスに返還されると、イングリッシュ教授が帰国しました。1946年4月、KKHはシンガポール初の産婦人科専門病院となり、シアーズは再開された医科大学の産婦人科教授代理に任命されました。1947年、以前に獲得していたQueen's Felowshipを利用してイギリスに留学、翌年1月には、シンガポールの産科医としては初めて英国王立産婦人科協会の会員となりました。1948年5月、イングリッシュ教授の退職に伴い、シアーズはシンガポール総督に呼び戻され帰国。医科大学の教授に立候補しましたが、イギリス人の小児外科医が選出されました。しかし、1950年1月、シアーズはマラヤ大学の産婦人科教授に就任しました。

1960年、シアーズはマラヤ大学教授を退任し、同時にFamily Planning Association of Singapore（シンガポール家族計画協会）の会長に就任しました。

シンガポール大統領としての役割

1971年1月2日、シアーズはシンガポールの第2代大統領に就任しました。在任中の1981年5月12日に死去。彼の遺体はイスタナ（大統領官邸）に安置され、85,000人もの人々が弔問に訪れたと伝えられています。

評価とエピソード

シアーズの功績は多岐に渡り、数々の勲章や名誉称号が贈られています。1974年にはインドネシアの勲章Star of the Republic of Indonesia Adipurnaを、1975年には英国王立医学協会名誉フェロー、1976年にはフィリピンの勲章Ancient Order of Sikatuna (Raja)を受章、さらに同年、英国王立産婦人科協会名誉フェローにもなっています。

シンガポール最長の橋であるベンジャミン・シアーズ・ブリッジは、彼の大統領としての功績を称えて名付けられました。また、シンガポール国立大学には、彼の名前を冠した学生寮シアーズ・ホールが存在しています。

ベンジャミン・ヘンリー・シアーズは、医師として、そして大統領として、シンガポール社会に多大な貢献をした人物として、今もなお多くの人々に敬愛されています。

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