ベントハイム城 (ロイスダール)

ヤーコプ・ファン・ロイスダール『ベントハイム城』

ヤーコプ・ファン・ロイスダールは、17世紀オランダを代表する風景画家の一人です。彼の作品の中でも特に有名なのが、ドイツのニーダーザクセン州にあるベントハイム城を描いた一連の絵画です。その中でも、1653年に制作された油彩画『ベントハイム城』は、彼の代表作として広く知られています。

作品の背景

ベントハイム城は、1050年に歴史に登場するゴシック様式の古城で、中世からベントハイムやシュタインフルトの伯爵、領主が所有していました。城は、ベントハイム砂岩と呼ばれる石材の丘の上に建てられており、この石材はアムステルダム王宮など、ヨーロッパ各地の重要な建築物にも使用されました。城の周囲には、悪魔の耳枕と呼ばれる奇岩があり、グリム兄弟がこの岩に関する伝説を記録しています。

作品の特徴

ロイスダールは、それまでのオランダ風景画とは異なる境地を切り開きました。ヤン・ファン・ホーイェンや叔父サロモン・ファン・ロイスダールなどの画家が平坦な風景を描く中、彼は故郷を離れて、農家やオークの林などを観察しました。そして、友人である画家ニコラース・ベルヘムとともに、ベントハイム城のあるヴェストファーレン地方を訪れました。

ロイスダールは1650年から1675年の間に、ベントハイム城を何度も描いていますが、本作品は、20代半ばの時に制作されたもので、最も精巧で野心的な作品とされています。

この絵では、城は南西の方角から描かれており、左隣には悪魔の耳枕と呼ばれる巨岩が見えます。アムステルダム国立美術館やマウリッツハイス美術館所蔵の作品では、城の正面に位置しています。山の中腹には民家が点在し、なだらかに下る山の斜面は、遠くの風車のある山へと続いています。前景には岩や切り倒された木が描かれ、岩山と前景の間には川が流れています。空は、ロイスダールの特徴である曇天で、画面に動きを与えています。

ロイスダールの風景画は、屋外での写生に基づいて描かれたものではなく、画家が写生した要素を組み合わせて構成した、空想上の風景です。しかし、それによって風景画は理想化された姿を獲得しています。本作品も、実際には低い丘に建てられたベントハイム城を、山城のように威厳のある姿で描いています。

ロイスダールの作品では、人間は自然の力に次ぐ存在として描かれています。この作品でも、人影はほとんどなく、鑑賞者の視線は前景から、家屋、岩、緑豊かな植生を経て、城へと導かれます。構図は、一世代前の画家のものを思わせるものの、ロイスダールの空間の明快さ、力強い色彩、筆遣い、そして細部へのこだわりが、遠景と近景を統一感のある全体として統合しています。

画面左前景の岩には、画家のモノグラムによる署名と制作年が描かれています。

来歴

この作品は、美術史家ジョン・スミスによると、ベントハイム伯爵のために制作され、1世紀以上もの間、伯爵家で相続されました。その後、19世紀にイギリスに渡り、1815年には政治家ウィリアム・スミス、1835年には貴族トーマス・キーブルの手に渡りました。1856年に売却された後、実業家・慈善家アルフレッド・ベイトによって購入され、1987年に彼のコレクションとともにアイルランド国立美術館に寄贈されました。

まとめ

ヤーコプ・ファン・ロイスダールの『ベントハイム城』は、彼の卓越した画力を示す代表作の一つです。17世紀のオランダ風景画の新たな地平を切り開いた作品として、今なお多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
『ウィーン美術大学絵画館所蔵 ルーベンスとその時代展』毎日新聞社（2000年）
John Smith; Cornelis Hofstede de Groot; Edward G. Hawke, ed. A catalogue raisonné of the works of the most eminent Dutch painters of the seventeenth century based on the work of John Smith. Volume.4, London Macmillan, 1911.

外部リンク

アイルランド国立美術館公式サイト, ヤーコプ・ファン・ロイスダール『ベントハイム城』
* ベントハイム城公式サイト

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