ヤーコプ・ファン・ロイスダール

ヤーコプ・ファン・ロイスダール（Jacob Izaakszoon van Ruisdael, 1628年頃 - 1682年3月14日）は、17世紀のオランダを代表する風景画家であり、同時代の画家たちの中でも特に重要な人物とされています。レンブラントやフェルメールが活躍したオランダ絵画の黄金時代において、彼は風景画というジャンルで独自の地位を確立しました。

生涯

ロイスダールの生涯については、詳細な記録は多く残されていません。彼はハールレムで風景画家であり額縁制作者でもあったイサーク・ファン・ロイスダールの息子として生まれました。絵画は、父親や叔父であるサロモン・ファン・ロイスダールから学んだと考えられています。17世紀初頭には、アダム・エルスハイマーやパウル・ブリルによって風景画がオランダで独立したジャンルとして確立されており、特にハールレムでは多くの風景画家が活躍していました。ロイスダールは17歳で最初の作品を残し、初期の作品は叔父のサロモンやピーテル・デ・モラインの影響を受け、森や砂丘を題材にした風景画を描いていました。

1648年にハールレムの聖ルカ組合のメンバーとなり、1650年には友人の画家ニコラース・ベルヘムと共にドイツのベントハイムへ旅をしました。ベントハイム城は、その後ロイスダールの作品に度々登場するモチーフとなっています。この旅行を通して、オランダとは異なる自然風景に触れたことが、彼の作風に変化をもたらしました。1650年代から1660年代にかけては、アラールト・ファン・エーフェルディンヘンの影響を受け、滝のある風景を描くようになります。これにより、平坦なオランダの風景とは異なる、北欧の海や森林を描いた作品が人気を博しました。

作風

ロイスダールは、森林、海岸、田舎道など、多様な風景を描きました。特にオランダの風景においては、平坦で起伏が少ないため、空と雲が重要な要素となります。彼の風景画の特徴として、地平線を低くとり、空と雲の表情を豊かに描くことで、光と大気の効果を追求している点が挙げられます。彼の作品は、自然の観察に基づいた写実的な描写と、詩的な雰囲気を見事に融合させています。

17世紀オランダ風景画成立の背景

17世紀のオランダ絵画の特徴の一つは、画家が専門分野に分かれていたことです。風景画は、それまで歴史画や肖像画に比べて低い位置づけでしたが、17世紀のオランダで独立したジャンルとして確立しました。この背景には、市民階級の勃興があります。スペインからの独立後、プロテスタントの共和国となったオランダでは、海外貿易により富裕な中産階級が台頭しました。彼らは、教会や貴族に代わって絵画の注文主となり、その住宅を飾るために、大画面の宗教画や歴史画よりも、小規模な風俗画、静物画、風景画などを好んだと考えられています。

代表作

『樹木のある砂丘』（1646年）（エルミタージュ美術館）
『ハールレム近郊の砂丘の風景』（1653年頃）（ルーヴル美術館）
『ベントハイム城』（1653年）（アイルランド国立美術館）
『ウェイク・ベイ・ドゥールステーデの風車』（1670年頃）（アムステルダム国立美術館）
『小麦畑』（1670年頃）（メトロポリタン美術館）
『前景に漂白場のある、北西からのハールレムの眺め』（1670年代）（アムステルダム国立美術館）

弟子と影響

ロイスダールは、多くの弟子を育てました。その中でも、有名な『ミッデルハルニスの並木道』を描いたメインデルト・ホッベマも彼の弟子です。ロイスダールの影響は大きく、後の風景画家に多大な影響を与えました。

関連項目

* サロモン・ファン・ロイスダール (Salomon van Ruysdael, 1600-1670) - 叔父であり、師の一人。

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