ベントレー・スピード8

ベントレーEXPスピード8：70年ぶりのル・マン挑戦と栄光

ベントレーは、1920年代、ル・マン24時間レースで4度の総合優勝を達成するなど輝かしい歴史を誇る名門メーカーです。しかし、1931年のロールスロイスによる買収後、長らくレース活動から遠ざかっていました。

状況が一変したのは1998年、フォルクスワーゲンによる買収がきっかけでした。ブランドイメージ向上のため、ベントレーは短期集中型のモータースポーツ戦略を採択、そして70年ぶりのル・マン復帰が決定。2001年から2003年までの3ヵ年計画で総合優勝を目指しました。

ベントレーEXPスピード8：マシン開発

プロジェクトの中核となったのは、フォルクスワーゲングループ傘下のレーシング・テクノロジー・ノーフォーク（RTN）です。巷ではアウディR8Cをベースに開発されたという噂もありましたが、RTNのゼネラルマネージャーを務めた鮒子田寛氏はその説を否定。EXPスピード8は新規設計された車両であると主張しています。

EXPスピード8は、2001年から2003年にかけてル・マン24時間レースに参戦した唯一のLM GTP車両（クローズドカー）でした。オープンカーであるLMP900車両と比較してタイヤ幅が狭く、持続距離は短かったものの、より大きなリストリクターの使用が許されたことが開発の決め手でした。2000年のレギュレーション変更によりLM GTP車両はハンディキャップを負うことになりましたが、EXPスピード8は変更前に完成していたため、特例として参戦が認められました。

車両のメカニズムは、時代を反映した先進技術が満載です。2001年モデルでは、アウディR8と同系の3.6リットルV型8気筒ツインターボエンジンを搭載。リストリクター径の差により、アウディR8を上回る出力を実現しました。2002年以降は、排気量4.0リットルに拡大した独自開発エンジンへと進化。2003年モデルにはテレメトリーシステムが導入され、ピットからマシンの走行状況をリアルタイムで把握できるようになりました。また、側面の競技番号は夜間灯火と連動して点灯する工夫も凝らされています。

空力性能も特筆すべき点です。240km/hを超える速度域では、ダウンフォースが車重を上回るほどに。クローズドトップながら、ストレートよりもコーナーリングでその性能を発揮しました。トランスミッションにはXtrack製横置きトランスミッションが採用され、トリプルフープのカーボンファイバー製セーフティセルにより高い安全性を実現しています。タイヤは2002年までダンロップ、2003年からはミシュラン製へと変更され、パフォーマンス向上に貢献しました。2003年モデルでは、足回りのジオメトリ、エアインテーク、トランスミッションなどが刷新され、ほぼ完全新設計となっています。

ル・マン24時間レースでの戦績

2001年：71年ぶりの表彰台

71年ぶりのル・マン復帰となった2001年、2台のEXPスピード8が参戦。7号車は7番手、8号車は9番手グリッドからスタートしました。天候不良により多くの車両がリタイヤする中、8号車が善戦。2位に浮上する場面もありましたが、最終的に総合3位でフィニッシュ。71年ぶりの表彰台獲得という快挙を成し遂げました。

2002年：タイヤのハンデ

エンジン排気量を拡大した2002年は1台のみの参戦。しかし、レギュレーション変更によるタイヤ小型化の影響を受け、予選・決勝ともにアウディR8に敵わず、総合4位という結果に終わりました。

2003年：73年ぶり6度目の優勝

ル・マン3ヵ年計画の最終年となった2003年。チーム・ヨーストがアウディワークスから撤退したことに伴い、ベントレーはEXPスピード8で単独参戦。強力なドライバー陣を迎え、予選では7号車と8号車がフロントローを独占。燃費の不利を高速走行と最小限のピットストップでカバーする作戦が奏功し、7号車と8号車が1-2フィニッシュ。73年ぶり6度目の優勝、そしてクリステンセンのドライバー史上初の4連覇という偉業を達成しました。

ベントレーEXPスピード8の3年間の挑戦は、復活劇、そして偉業達成の物語として、モータースポーツ史に刻まれています。伝統と革新を融合させたマシン、そしてそれを操るドライバーたちの熱い戦いは、多くのファンを魅了しました。

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