ペガススの大四辺形

ペガススの大四辺形とは

秋の夜空を彩る代表的な星の並びの一つに、「ペガススの大四辺形」があります。これは特定の星座を指すわけではなく、いくつかの星座にまたがる明るい星々を結んでできる四辺形のアステリズム（星群）です。具体的には、ペガスス座のα星（マルカブ）、β星（シェアト）、γ星（アルゲニブ）と、アンドロメダ座のα星（アルフェラッツ）という四つの恒星によって形作られています。

これらの星は比較的明るく、郊外などの暗い空であれば肉眼でも容易に見つけることができるため、秋の星座を探す際の重要な目印となります。一方、この四辺形の内部にはあまり明るい星が存在しないため、光害の影響が大きい都市部などでは、四辺形の輪郭は見えても、内側の星々を識別するのは難しい場合があります。

名称とその由来

この四辺形は単に「ペガススの大四辺形」と呼ばれるだけでなく、「ペガススの四辺形」という省略形や、季節を表す「秋の大四辺形」「秋の四角形」「秋の四辺形」といった異名でも親しまれています。

興味深いのは、「ペガススの大四辺形」という名称にも関わらず、構成する星の一つにアンドロメダ座のα星（アルフェラッツ）が含まれている点です。これは、かつてこの星がペガスス座にも属し、「ペガスス座δ星」として認識されていた時代があったためです。アンドロメダ座とペガスス座の境界が曖昧だった頃の名残と言えます。1928年に国際天文学連合（IAU）によって星座の境界が定められた際、この星はアンドロメダ座のみに所属することが正式に決定され、ペガスス座からは外されました。しかし、その後もこの四つの星を結ぶ並びを「ペガススの大四辺形」と呼ぶ慣習は残り、現在に至っています。

古代の人々の視点

ペガススの大四辺形は、古くから様々な文化において人々の想像力をかき立ててきました。古代ギリシア神話では、この大きな四辺形は「神が地上を覗く窓」に見立てられ、その内側に見える星々は「神の目」と表現されたと言われています。また、古代中国の天文学では、四辺形の西側の辺を「室宿（しっしゅく）」、東側の辺を「壁宿（へきしゅく）」と呼び、この一帯を天上の広大な宮殿の一部として捉えていました。日本においても、この特徴的な形から「枡形星（ますがたぼし）」や「四隅星（よすみぼし）」といった親しみやすい名前で呼ばれていました。

星空観察の道標

ペガススの大四辺形は、他の重要な星や星座を見つけるための優れた道標としても機能します。例えば、四辺形の西側の辺を構成するペガスス座のα星（マルカブ）とβ星（シェアト）を結んだ線を北へ延長していくと、やがて北極星（ポラリス）に到達します。同じ線を南に延長すると、秋の南の空で明るく輝くフォーマルハウトを見つけることができます。

また、四辺形の東側の辺を構成するアンドロメダ座のα星（アルフェラッツ）とペガスス座のγ星（アルゲニブ）を結んだ線を北へ伸ばしていくと、カシオペヤ座のβ星（カフ）を経て北極星へとつながります。この線を南に延長すると、くじら座のβ星（デネブ・カイトス）を見つけることができます。

関連する星の並び

ペガススの大四辺形を起点とする他の興味深いアステリズムも存在します。四辺形の北側の辺を形成するペガスス座β星とアンドロメダ座α星を結ぶ線から、さらに北東方向へカーブを描くように伸びる星の並びを「秋の大曲線」と呼ぶことがあります。これは、その形が春の夜空に見られる「春の大曲線」を思わせることから名付けられたものです。

さらに、このペガススの大四辺形、秋の大曲線、そしてペルセウス座のγ星（アルゴル付近）を合わせた全体的な並びを「おばけ柄杓（おばけびしゃく）」と呼ぶこともあります。これは北斗七星のような柄杓の形に似ていることから、天文解説などで用いられることがあります。

ペガススの大四辺形は、その存在自体が美しいだけでなく、秋の夜空に輝く他の星々や星座へのナビゲーターとしても重要な役割を果たしています。暗い夜空を見上げた際には、まずこの大きな四辺形を探してみると良いでしょう。

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