室宿

室宿（しっしゅく、はついぼし）は、古代中国で成立し、東アジア各地で用いられた重要な天文学上の区分である二十八宿（にじゅうはっしゅく）を構成する星宿の一つです。この二十八宿は、天球を黄道に沿って28の領域に分割し、月や惑星の運行を観測するための基準として機能しました。また、四つの方位を守護する聖獣、すなわち東の青龍（せいりゅう）、南の朱雀（すざく）、西の白虎（びゃっこ）、そして北の玄武（げんぶ）にそれぞれ七宿ずつ配されています。

室宿は、この分類において「北方玄武（ほっぽうげんぶ）」に属する七つの宿のうち、第六番目に位置づけられています。その主な位置を特定する基準となる星、いわゆる「距星（きょせい）」は、現代天文学における星座区分のペガスス座アルファ星（α Pegasi）に該当します。しかし、室宿の中心をなす星官（せいかん）、すなわち古代中国の星座としての「室」は、距星であるペガスス座アルファ星に加え、ペガスス座ベータ星（β Pegasi）の二つの明るい星によって形成されているとされています。この二星からなる星官「室」は、「営室（えいしつ）」という別名でも古くから知られています。

室宿が管轄するとされる天球の領域には、「室」の星官の他にも、いくつかの小規模な星官が配置されています。確認されている星官の数は合計で11に上り、これは室宿が比較的広範な天区を占めることを示唆しています。これらの星官群は、古代の人々にとって天上の特定の領域を認識し、天体の動きを追跡する上で重要な役割を果たしました。

暦注（れきちゅう）においても、室宿は特筆すべき意味合いを持っています。古来の暦や占星術においては、室宿の日が訪れることは極めて縁起が良いとされており、特に人生における喜び事や重要な行事、例えば祝祭や婚礼などをはじめとする、あらゆる種類の事柄を行うのに最適であると伝えられています。このような吉凶の判断は、当時の人々の生活や社会活動において、日取りを決定する上で広く参考にされ、人々の暮らしに深く根差していました。

このように、室宿は天文学上の区分としてだけでなく、文化や信仰、そして日常生活においても重要な役割を担ってきた星宿と言えるでしょう。

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