ペクサン砲

ペクサン砲

ペクサン砲（ペクサンほう、英：Paixhans gun、仏：Canon Paixhans）は、19世紀初頭にフランスの砲兵将校アンリ=ジョセフ・ペクサンによって開発された、炸裂弾を発射できる艦砲です。18世紀までの艦砲は実体弾を使用していましたが、木製艦艇に対しての破壊力が限られていました。しかし、ペクサンは新たな弾薬の運用を提案し、海戦の様相を一変させました。

背景と開発

ペクサン砲は1822年から1823年にかけて開発されました。当時、陸上戦では榴弾砲や臼砲が炸裂弾を使用していましたが、その使用方法は限られていました。特に海戦においては、従来の大角度発射による方式では実用性が乏しく、移動する艦船同士での直接照準による平射が求められていました。ペクサンは、炸裂弾が高初速の平射で発射可能とするための遅延機構を発明しました。この仕組みにより、炸裂弾が船体に深く侵入した後に爆発することで、強力な損害を与えることができるのです。

1824年には戦列艦「パシフィカトゥール」を用いた実験が行われ、炸裂弾の威力が証明されました。この実験結果は、彼の著作『フランス海軍の実施した新型兵器についての実験』としてまとめられ、技術の進展を示す重要な文献となっています。

仕様と実績

最初のペクサン砲がフランス海軍に納入されたのは1841年のことです。この砲は約4,530キログラムの重さを持ち、有効射程は約3.2キロメートルに達し、当時としては非常に革新的な武器でした。1840年代にはフランスだけでなく、イギリス、ロシア、アメリカでも採用され、この新型艦砲は多くの艦艇に搭載されました。特に1849年の第一次シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン戦争やクリミア戦争において、その効果が証明されました。

各国での採用

フランス

フランス海軍はペクサン砲を搭載した艦艇を数隻保有しましたが、それらの大半は限定的な武装の一部として施されただけでした。なかでも、ブルターニュ戦列艦は130門の砲を搭載しており、その中の36門がペクサン砲でした。

アメリカ

アメリカ海軍では1845年からペクサン砲を採用し、艦艇に8インチ及び10インチの砲を装備しました。コンスティチューションなどの艦艇には数門のペクサン砲がありましたが、1849年にダールグレン砲の開発が進むにつれ、その運用が徐々に減少しました。

ロシア

ロシア海軍はペクサン砲を戦闘において初めて大規模に使用した国の一つです。1853年のシノープの海戦では、ペクサン砲の炸裂弾がトルコ艦隊に荒廃的な被害を与える要因となりました。

日本

日本にもペクサン砲の存在が知られ、ペクサンの著作がオランダ語に翻訳され輸入されました。これを受け、藩主鍋島直正に献上されるなど、国内でもその知識が広まりました。また、ペリー来航の際には、ペクサン砲を搭載した米軍艦に日本の士族が触れるという事例もありました。

結論

ペクサン砲は、その画期的な設計と威力によって、19世紀の海戦における武器体系を根本的に変える存在となりました。木製艦艇における効果的な攻撃手段として、各国海軍における重要な役割を果たし、時代の潮流を反映した兵器の進化を象徴する存在として語り継がれています。

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