ペトルス・バルトロメオ

ペトルス・バルトロメオ（ピエール・バルテルミー）は、11世紀の南フランス出身の修道士であり、第一回十字軍に参加した兵士でもありました。彼の名は、アンティオキア攻囲戦における「聖槍」発見の逸話と深く結びついています。

1097年12月、アンティオキア包囲中にペトルスは最初の幻視を体験します。それは聖アンデレが現れるというものでした。彼は幻の中で聖アンデレに導かれ、聖ペテロ教会へと行き、そこでイエス・キリストの脇腹を突いたとされる「聖槍」の在り処を知らされたと語ります。聖アンデレは、この発見を十字軍の指導者たち、特にトゥールーズ伯レーモンに伝え、聖槍を彼に渡すようにと指示しました。

しかし、ペトルスはすぐにこのことを伝えませんでした。アンティオキア陥落直前の1098年6月までに、聖アンデレはさらに4度彼の前に現れます。1098年2月には、十字軍を襲った飢餓のためか、彼の視力は失われ始めました。ペトルスはこれを聖アンドレによる罰だと考えました。

1098年6月3日、十字軍はアンティオキアを陥落させますが、6月9日にはセルジューク軍に包囲され、再び危機に瀕します。この時、ペトルスはついに幻視について諸侯に語り、聖槍の探索を提案します。レーモンは彼の言葉を信じ、年代記作者レーモン・ダジール、オランジェ司教ギヨームらと共に、聖ペテロ教会の地下を掘り始めました。6月14日、ついにペトルス自身が穴の底に降りて、土の中から槍の穂先を発見します。この「聖槍」の発見は十字軍の士気を大いに高め、彼らは熱狂しました。ペトルスによれば、その夜、聖アンデレが再び現れ、聖槍発見を祝う祝日を設けるよう命じたといいます。

しかし、聖槍の発見を疑う者もいました。教皇使節ル・ピュイのアデマールはペトルスを詐欺師だと考え、彼がただ鉄片を掘り出して聖槍だと言い張っているだけだと主張しました。それでも、多くの人々はこれを吉兆と捉え、神が彼らの勝利を保証したと考えました。6月28日、十字軍は聖槍を先頭に出撃し、セルジューク軍を撃破します。アデマールはアンティオキアの疫病で亡くなりますが、ペトルスによれば、死後、アデマールは彼のもとに現れ、聖槍が本物であることを認めたと言います。

しかし、レーモン以外の諸侯や貴族はペトルスを信じず、彼の評判は次第に落ちていきます。彼はイエス・キリストから十字軍に裸足でエルサレムへ行進せよとの命令を受けたと主張しましたが、これは無視されました。また、キリスト、聖アンデレ、アデマールらが現れて、十字軍の罪を非難したとも語ります。

ペトルスの主張を試すため、神明裁判が行われることになりました。1099年4月8日、ペトルスは「火の試練」に臨みます。燃える板壁の間を歩くというものでした。無傷で渡りきれば神の導きがあるとされる試練でしたが、ペトルスは大火傷を負います。彼は、火の中でキリストが現れ無傷だったが、その後群衆が押し寄せたせいで怪我をしたと主張しますが、4月20日にその傷がもとで亡くなります。

ペトルスの発見した聖槍は、レーモンの権威を高めるものでしたが、彼の神明裁判での失敗と死により、聖槍は偽物だという話が広まり、レーモンの権威も損なわれました。しかし、西欧では、ペトルス・バルトロメオが幻視によって本物の聖槍を発見したという話が広く語り継がれることになりました。

この物語は、当時の宗教的熱狂、信仰と疑念、政治的駆け引きが複雑に絡み合った状況を鮮やかに描き出しています。ペトルス・バルトロメオの生涯は、中世ヨーロッパの精神史を理解する上で重要な手がかりとなります。

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