ペルシア式カナート

ペルシア式カナート：乾燥地を潤す知恵の結晶

ペルシア式カナートは、乾燥地帯であるイランで生まれた、地下水路による給水システムです。山麓の地下水を水源とし、緩やかな傾斜で地下に水路を張り巡らせ、遠く離れた場所まで水を供給します。この技術は、古代ペルシアの人々の知恵と工夫の結晶であり、乾燥地帯における生活と文化の発展に大きく貢献しました。

カナートの構造と技術

カナートは、水源となる母井戸から、目的とする場所まで地下水路を掘り進むことで構築されます。水路は、地表に掘られた縦坑によって、通気と掘削作業を容易にしています。上空から見ると、縦坑が点々と連なっているのが特徴です。

カナートの建設には、高度な測量技術が不可欠です。わずかな傾斜を維持しながら、正確に水路を掘り進める必要がありました。この技術は、長い年月をかけて洗練され、ペルシア式カナートの独自性を確立しました。

カナートの歴史と伝播

カナートの起源は、紀元前2000年頃の古代ペルシアに遡ると言われています。紀元前714年の記録には、アッシリアの王が用水路を破壊したという記述があり、これがカナートに関する最古の記録と考えられています。

カナートの技術は、ペルシアから周辺地域へと伝播していきました。オマーンでは「アフラジ」、北アフリカでは「フォガラ」と呼ばれ、各地の乾燥地帯で独自の発展を遂げました。中国の新疆ウイグル自治区にある「坎児井（カンアルチン）」も、カナートの技術が伝わったものと考えられています。

ヨーロッパにも伝わり、スペインのマドリードはカナートによって開かれた都市として知られています。カナートの技術は、大航海時代を経てアメリカ大陸にも伝播し、乾燥地帯における人々の生活を支えました。

世界遺産「ペルシア式カナート」

イランには、現在も37,000以上のカナートが存在すると言われています。その中でも、特に技術的、立地的に重要な11のカナートが、2016年にユネスコの世界遺産に登録されました。

世界遺産に登録されたカナートは、以下の基準を満たしていると評価されました。

基準(3): カナートは、過去の偉業と歴史的解決策が歴史的層序を形成している。様々な文明の形成においてその存廃を左右したカナートの役割があまりにも広範なので、イラン砂漠高原におけるその文明の基盤は『カナート（カレーズ）文明』と呼ばれている。
基準(4): ペルシア式カナートは、世界の乾燥・半乾燥地域での人類の定住史における重要な段階を例証する技術的集積体の、顕著な例である。

カナートが育んだ文化

カナートは、単なる給水システムとしてだけでなく、人々の生活や文化にも深く根付いています。カナートの水を管理する人々は、地域社会において重要な役割を果たし、カナートの維持管理に関する知識や技術は、世代を超えて受け継がれてきました。

イランの一部の地域では、「カナートの結婚」という儀式が今も残っています。これは、カナートの水が枯れないように、未亡人の中からカナートの妻を選び、婚礼を行うというものです。この儀式は、カナートへの感謝の気持ちを表すとともに、未亡人の生活を保障するという社会福祉的な側面も持っています。

まとめ

ペルシア式カナートは、乾燥地帯における人々の知恵と工夫の結晶であり、古代から現代に至るまで、人々の生活と文化を支えてきました。世界遺産に登録されたカナートは、その歴史的、文化的価値を世界に示し、未来へと受け継がれていくことでしょう。

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