ペーター・ジーモン・パラス

ペーター・ジーモン・パラス（Peter Simon Pallas, 1741年9月22日 - 1811年9月8日）は、18世紀を代表するドイツ出身の博物学者であり、ロシア帝国でその才能を開花させました。動物学、植物学を中心に、地理学や鉱物学にも精通し、多岐にわたる分野で顕著な業績を残しました。

生涯

ベルリンで医学者の息子として生まれたパラスは、幼少期から家庭教師による教育を受け、自然科学への深い興味を育みました。ハレ大学、ゲッティンゲン大学で学び、19歳でライデン大学にて博士号を取得するという、若くしてその才能を発揮しました。その後、ハーグに移り住み、1766年には、オランダの博物館に収蔵された脊椎動物に関する詳細な記述を含む著書『Miscellanea Zoologica』を出版しました。パラスの動物分類法は、後の博物学者ジョルジュ・キュヴィエによって高く評価されました。

パラスは当初、アフリカ南部や新大陸への探検を計画していましたが、父の要請によりベルリンへ帰還することとなりました。しかし、彼の才能はすぐにエカチェリーナ2世の目に留まり、1767年にサンクトペテルブルク科学アカデミーの教授として招聘され、ロシアへと渡ります。1768年から1774年にかけて、パラスはロシア各地、特にバイカル湖の東岸までの広大な地域を踏破し、その調査結果は定期的にサンクトペテルブルクへ送られました。これらの調査は後に『ロシア帝国の諸地域の旅』（Reise durch verschiedene Provinzen des Russischen Reichs）として出版され、地理学、鉱物学、シベリアの先住民族やその宗教、そして数々の新しい動植物に関する貴重な記録となりました。

1793年から1794年にかけて、パラスは再び探検隊を率いてロシア南部へと旅立ち、その成果は『P. S. Pallas Bemerkungen auf einer Reise in die Südlichen Statthalterschaften des Russischen Reichs』としてまとめられました。1810年にベルリンへと戻り、その翌年、69歳で生涯を閉じました。

貢献

パラスの貢献は、単に新種動植物の発見にとどまらず、それらの分類や生態に関する詳細な記述、地理学や鉱物学的な知見、そしてシベリアの民族誌に関する貴重な記録を残したことにもあります。彼は、マヌルネコを始めとする多くの動物の英名にその名を残し、クラスノヤルスク隕石から採取された石鉄隕石の組織は「パラサイト」と名付けられました。小惑星(21087)Petsimpallasも、彼に敬意を表して命名されています。

パラサイト（石鉄隕石）

パラスの探検は、隕石研究の歴史においても重要な転換点となりました。パラスは、当時起源が不明であった隕石（パラスの言葉で“gediegnen Eisen”）を持ち帰り、その調査記録に、この隕石が1749年にクラスノヤルスク南部の村に落下したという地元住民の証言を記述しました。この隕石はドイツの物理学者エルンスト・クラドニによって研究され、1794年に発表された『パラス鉄などの起源と関係する自然現象について』（Uber den Ursprung der von Pallas gefundenen und anderer ihr ahnlicher Eisenmassen und uber einige damit in Verbindung stehende Naturerscheinungen）という論文で、隕石の地球外起源説が初めて提唱されるに至りました。

著書と図版

パラスは、多くの著書を著しましたが、特に旅行記や図版入りの博物誌は、当時の人々に大きな影響を与えました。彼の著作に収録された詳細な図版は、科学的な正確さを保ちながらも、芸術的な価値も高く、当時の自然科学の発展に大きく貢献しました。

パラスの業績は、現代においても高く評価されており、その名は今もなお、自然科学の歴史に燦然と輝いています。

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