ホセ・マリア・ベラスコ・イバラ

ホセ・マリーア・ベラスコ・イバーラ：エクアドルのポピュリズム政治家

ホセ・マリーア・ベラスコ・イバーラ（José María Velasco Ibarra、1893年3月19日 - 1979年3月30日）は、エクアドルの政治家であり、20世紀のエクアドル政治を代表する人物の一人です。彼は、そのカリスマ的な弁舌と大衆への訴求力で、エクアドルの政治史において特異な足跡を残しました。

生涯と政治の始まり

1893年、首都キトで土木技師の息子として生まれたベラスコ・イバーラは、幼少期に学校教育を受けず、母親から教育を受けました。父の死後、サン・ガブリエル高校、エクアドル中央大学へと進み、法学の博士号を取得。その後、パリ大学への留学も経験しました。彼は、著述家としても活動し、新聞への寄稿も行っていました。キト市役所での職務を経て、1932年に共和国議員に選出されたことが、彼の政治家としてのキャリアの始まりとなりました。

5度の政権と亡命生活

ベラスコ・イバーラは、生涯で5度もエクアドルの大統領に就任しました。1934年、40歳で初めて大統領に選出され、80%という圧倒的な得票率を記録しました。しかし、その政権は長くは続かず、1935年には軍事クーデターによって失脚し、コロンビアへの亡命を余儀なくされました。その後も、1944年、1952年、1960年、1968年と大統領に返り咲くものの、任期を全うできたのは1952年から1956年までの1期のみでした。残りの4期は、軍事クーデターなどによって政権を追われています。

国内よりも亡命生活を送る期間の方が長かったため、「偉大なる不在者」という異名を持ちます。

各政権とその特徴

第1次政権 (1934-1935): ペルーなど各国を歴訪し、エクアドルのイメージ回復に努めましたが、軍事クーデターにより短期間で終焉を迎えました。
第2次政権 (1944-1947): 「名誉革命」と呼ばれるクーデターで復権し、大統領に任命されました。エクアドル民主同盟を創設し左派勢力と協調しましたが、保守的憲法を採択、閣僚のクーデターにより再び亡命となりました。
第3次政権 (1952-1956): この期間は比較的安定しており、教育やインフラ建設に力を入れました。学校や道路の建設・改修を積極的に進め、エクアドルの経済発展に貢献しました。バナナがエクアドルの主要輸出品となったのもこの時期です。
第4次政権 (1960-1961): リオデジャネイロ議定書の廃棄を宣言し、公共投資による経済成長を目指しましたが、通貨の暴落とインフレにより、再び軍事クーデターが起こり、亡命を余儀なくされました。
* 第5次政権 (1968-1972): 経済状況は好転せず、財政危機が発生。憲法を停止し独裁者となりました。その後民政移管を決定するも、軍事クーデターにより失脚し、亡命しました。

政治スタイルと評価

ベラスコ・イバーラの政治スタイルは、ポピュリズムの典型として知られています。彼は、弁舌の才と大衆へのアピールによって支持を集めましたが、政党組織の整備や一貫した政策の実行には欠けていました。また、公共事業やインフラ整備を重視する一方で、根本的な社会改革には踏み込まず、政権は常に不安定でした。そのため、軍部の介入を招き、何度も政権を追われる結果となりました。

1977年に民政移管が行われた際には出馬要請がありましたが、高齢のため引退を決意。1979年3月30日、キトで86歳で亡くなりました。

ベラスコ・イバーラは、エクアドルの政治史において毀誉褒貶のある人物ですが、そのカリスマ性と大衆への影響力は、今もなお語り継がれています。

もう一度検索