ホテルニューワールド崩壊事故

ホテルニューワールド崩壊事故：シンガポールを襲った悲劇

1986年3月15日、シンガポールで発生したホテルニューワールド崩壊事故は、人々の記憶に深く刻まれる痛ましい出来事でした。地上6階建てのビルが、まるで砂の城が崩れるかのように、突然その姿を消したのです。この事故で、50人もの人々が瓦礫の下敷きとなり、33人もの尊い命が失われました。

ビルの概要

事故が発生した「リアンヤック・ビル」は、シンガポール北東部のセラングーン地区に位置していました。このビルには、1階に銀行、2階にナイトクラブとレストラン、そして3階から6階にはホテルニューワールドが入居していました。1971年に竣工したこのビルは、当時としてはごく普通の建物でした。

事故の発生

1986年3月15日午前11時25分、突然、ビルは轟音とともに崩壊しました。その時間は、わずか1分にも満たなかったと言われています。当時、ビルの内部にいた人々は、逃げる間もなく瓦礫の下敷きとなりました。この予期せぬ出来事に、当時のリー・クアンユー首相も衝撃を隠せなかったと伝えられています。

救助活動

崩壊直後から、通行人、消防隊、警察、軍、そして近隣住民が一体となって救助活動を開始しました。事故発生から12時間で9人の生存者が救出されるなど、必死の救助活動が続けられました。さらに、地下鉄建設に携わっていた海外の専門家も駆けつけ、瓦礫の下にトンネルを掘るという画期的な方法で生存者の救出に貢献しました。この活動は、最終的に17人の生存者を救出することに成功しましたが、5日間に及ぶ救助活動の末、33人の死亡が確認されました。

事故原因

シンガポール政府の徹底的な調査の結果、この事故の根本的な原因は、建物の構造上の欠陥であることが判明しました。当初の設計にはなかった屋上設備の追加や、銀行の金庫の設置などは、直接的な原因ではありませんでした。真の原因は、積載荷重の計算を依頼された建築士が、人件費未払いにより計算を拒否し、資格のない見習いの建築士が無理やり計算をさせられたことにありました。その見習い建築士の計算は誤っており、さらにその計算結果を誰もチェックしなかったことが、致命的な過ちでした。建物は完成当初から自重に耐えられない状態にあり、柱には限界を超える負荷がかかり続けていました。そして、長年の過負荷に耐えきれず、一本の柱が破損すると、連鎖的に他の柱も破損。建物は、その構造的な脆弱性から崩壊に至りました。

事故を題材とした作品

この痛ましい事故は、テレビ番組でも取り上げられています。

ナショナルジオグラフィックチャンネル『衝撃の瞬間』第2シーズン第9話「シンガポールのホテル倒壊事故」
フジテレビ『奇跡体験!アンビリバボー』2021年8月12日放送

関連項目

三豊百貨店崩壊事故：1995年に韓国で発生した建物崩壊事故。崩壊に至るメカニズムが本事故と類似しています。
ダッカ近郊ビル崩落事故：2013年にバングラデシュで発生した建物崩壊事故。世界最大規模の犠牲者を出しました。
* 事故の一覧#建造物崩壊：その他の建造物崩壊事故に関する情報はこちらをご覧ください。

ホテルニューワールド崩壊事故は、ずさんな建築設計と管理体制がもたらす悲劇を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。この事故を教訓に、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、安全管理の徹底が求められています。

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