ホテル大東館火災

ホテル大東館火災：熱川温泉を襲った悲劇

1986年2月11日未明、静岡県賀茂郡東伊豆町の熱川温泉に位置する「ホテル大東館」の別館「山水」で発生した火災は、24名もの尊い命を奪う大惨事となりました。この火災は、老朽化した木造建築が抱える危険性と、安全管理体制の不備が複合的に重なり、悲劇を招いた典型的な事例として、後世に教訓を残しています。

火災の発生と被害

火災は午前1時35分頃、「山水」の配膳室付近から発生しました。出火原因については諸説ありますが、配膳室の壁に使用されていたベニヤ板が、湯沸かし器やガスコンロの熱により長期間かけて炭化し、低温発火に至ったとする説が有力です。1939年築の木造3階建てであった「山水」は、乾燥した空気も手伝い、火は瞬く間に燃え広がりました。

宿直の従業員が火災に気付いたのは、出火から約30分後の午前2時5分頃でした。初期消火を試みましたが、火は既に天井裏まで達しており、消火は困難でした。従業員は宿泊客の避難誘導を断念し、新館の宿泊客の避難を優先しました。しかし、警備員が消防署への通報に手間取ったことで、被害は拡大の一途を辿ります。近隣の焼肉店からの通報で消防隊が到着した時には、既に建物全体が火と煙に包まれており、消火活動は困難を極めました。

午前6時50分頃に鎮火したものの、「山水」は全焼し、従業員1名と宿泊客23名、計24名が命を落としました。生存者はわずか2名に留まり、犠牲者の多くは、就寝中に一酸化炭素中毒などで意識を失い、逃げ遅れたと推測されています。現場の惨状は凄まじく、身元確認も困難を極めました。

火災後の経過と責任

火災後、ホテル大東館の専務と防災管理責任者であった内務部長が業務上過失致死の容疑で逮捕されました。社長は不起訴となりましたが、経営責任を問われました。

大東館は一時休業したものの、程なくして新館「月光閣」の改修工事を行い、営業を再開しました。しかし、その後の経営は振るわず、最終的には経営破綻に至っています。

この火災では、ホテルの防火体制や安全管理における問題点も浮き彫りになりました。「山水」は、マル適マーク（防火基準適合表示制度）の対象外であったにもかかわらず、あたかも全館が適合しているかのように装っていたこと、従業員の危機意識の欠如、火災報知機の誤作動による報知器のスイッチ切断などが、被害を拡大させた要因として指摘されています。

「山水」の歴史と影響

「山水」は、熱川温泉でも歴史ある旅館として知られ、文豪の川端康成や、小説家の花登筺も愛した旅館でした。特に花登筺は、自著『銭の花』に登場させたり、ドラマ『細うで繁盛記』の「山水旅館」のモデルにしたほどでした。しかし、1970年代に本館が建てられた後は、老朽化により通常は使用されず、繁忙期にのみ利用される状況でした。この状況が、安全管理の不備を招いた一因とも言えるでしょう。

メディアの報道と影響

火災当日は、伊豆半島では珍しい大雪に見舞われ、各テレビ局は、厳しい気象条件の中での中継を強いられました。また、現場周辺の通信環境が不十分であったため、中継回線の確保にも苦労しました。この火災をきっかけに、東伊豆地区の通信インフラ整備が進み、中継基地局が設置され、その後の報道体制の強化に繋がりました。

現在

「山水」の跡地は緑地公園として整備され、慰霊碑が建立されています。この地を訪れる人々は、この悲劇を忘れることなく、安全への意識を高めるべきでしょう。

ホテル大東館火災は、火災の恐ろしさと、安全管理の重要性を改めて認識させる出来事でした。二度とこのような悲劇を繰り返さないために、私たちはこの教訓を胸に刻み、防災対策を徹底していく必要があります。

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