ホテル日本閣殺人事件

ホテル日本閣殺人事件

ホテル日本閣殺人事件は、1961年に発覚した連続殺人事件で、小林カウを主犯とする凄惨な事件です。この事件は、温泉旅館の経営者夫婦とその元夫を殺害したもので、小林カウは戦後初の女性死刑囚として、その名が歴史に刻まれています。

事件の概要

発端

1958年、小林カウは、栃木県塩原温泉郷にあった「ホテル日本閣」が経営難で競売にかけられるという噂を耳にします。自身で旅館を経営したいと考えていた小林は、ホテル経営者の男性に買収を打診しますが、断られます。しかし、その年末、経営者は小林を訪ね、現在の妻と離婚するための手切れ金として50万円を要求、離婚後に小林を妻とし、共同経営者とする条件を出します。小林は30万円に値切りますが、経営者の妻が30万円では離婚に応じなかったため、経営者と小林は妻の殺害計画を立てます。

妻の殺害

1960年2月8日、小林は殺し屋のOに依頼し、経営者の妻を殺害させます。遺体はホテルの土間下に埋められ、行方不明として処理されました。その後、小林は経営者と結婚し、自身の貯蓄200万円をホテルの増築に費やします。しかし、経営者はホテル名義を小林に移すという約束を反故にし、ホテルには多額の借金があるという事実を明かします。この事実に激怒した小林は、Oに「経営者を殺してくれれば、夫婦でホテルを経営しよう」と持ちかけます。

経営者の殺害

1960年12月31日、Oが経営者の首を絞め、小林が包丁でとどめを刺し、経営者を殺害します。遺体は床下に埋められました。翌年2月19日、栃木県大田原署は、経営者夫婦の相次ぐ失踪に不審を抱き、小林とOを逮捕します。Oはすぐに自供しますが、小林は3日間粘った末に自供します。逮捕から2日後には経営者の遺体が、その翌日には経営者の妻の遺体が発見されました。小林は逮捕後の供述で、Oも殺害する予定だったと語っています。

熊谷事件

さらに、栃木県警本部に、9年前に急死した小林カウの夫の死に方が不審だという内容の投書が届きます。小林を追求したところ、青酸カリで殺害したことを認めました。

裁判と判決

1963年8月、宇都宮地方裁判所で審理の結果、小林カウに死刑、Oに無期懲役の判決が下ります。1966年7月14日、最高裁は被告の上告を棄却し、両者の死刑が確定しました。1970年6月11日、両者の死刑が執行されました。

小林カウの人物像

生い立ち

小林カウは、1908年に埼玉県大里郡玉井村の貧しい農家に生まれました。小学校卒業後すぐに働き始め、16歳で家政婦として働き、22歳で結婚します。病弱な夫を支えるために商売を始め、戦後には闇商売で大金を稼ぎました。1951年には、警察官に恋をし、検挙を逃れるために彼を手中に収めました。

事件への関与

1952年に夫が急死した後、小林は警官と同棲しますが2年で破綻。その後、1956年に塩原温泉で土産屋を開き、一財産を築き、ホテル日本閣の買収に乗り出します。そして、経営者夫婦殺害事件を引き起こします。

逮捕後

独房での生活に苦痛を感じた小林は、話し相手を求めて宗教を学び始めます。複数の宗派の教誨面接を受けますが、最終的には浄土真宗に落ち着き、毎日正信念仏偈を唱えていました。死刑判決確定後も、錯乱する様子はなく、冷静に釈放後の人生設計を立て、小笠原諸島に養老院を建てる計画を語っていたといいます。死刑執行の前日には、寿司をリクエストし、告別晩餐会では、賑やかな雰囲気の中、昔の流行歌を歌ったそうです。

死刑執行

1970年6月11日、小林は死刑執行場に到着後、教誨師や女性の立ち会いを希望し、執行前に「長い間お世話になりました。思い残すことも、言い残すこともありません」と言い残して死刑が執行されました。

評価

作家の大塚公子は、小林を「主動型」の犯罪者と評し、自らの意思で犯行を計画し実行する、したたかな強さを持っていたと分析しています。

メディアでの扱い

この事件は、多くの映画や小説で題材とされ、特に吉永小百合が小林カウをモデルとした役を演じた映画『天国の駅 HEAVEN STATION』は有名です。



ホテル日本閣殺人事件は、小林カウという特異な人物を通して、人間の欲望や狂気を描いた事件として、今もなお語り継がれています。

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