ホテル百万石

ホテル百万石の興亡

ホテル百万石は、石川県加賀市山代温泉に存在した、かつては名門として名を馳せた温泉旅館です。1962年の創業以来、その豪華な施設と質の高いサービスで多くの人々を魅了しましたが、2010年に経営破綻という結末を迎えました。しかし、その歴史は単なる衰退物語ではなく、創業者の情熱、革新、そして時代の波に翻弄された複雑な物語です。

草創期と急成長

その歴史は、明治40年に吉田初治郎が創業した「花屋旅館」に遡ります。当初は小規模な旅館でしたが、二代目から経営を引き継いだ吉田豊彦氏の改革により、大きく変貌を遂げます。一橋大学を卒業後、東レを退職して旅館経営に乗り出した豊彦氏は、1956年に増築した円形の「百万石風呂」が大当たりし、1959年には山代温泉でトップの売上を記録するほどの人気旅館へと成長させました。

1962年、旅館はさらなる発展を遂げるため、1200坪の土地を新たに購入し、別館として「ホテル百万石」を開業しました。1967年には円形の大型プールを完成させ、その人気はさらに加速。利益は倍増しました。しかし、1975年に本館と新館が全焼するという大きな試練に見舞われます。翌年、旅館は社名を「ホテル百万石」に改称し、花屋旅館を売却して再建の道を選びます。その際、敷地は2万坪にまで拡大し、「お祭り広場」や「御殿風庭園風呂」などのユニークな施設を次々とオープンさせ、集客力を高めました。

1982年には数奇屋風別館「梅鉢亭」、1985年には南館をオープンし、収容人員は1100名規模にまで拡大。1986年には売上66億円、従業員360人という、まさに日本一の温泉旅館へと成長しました。1983年には、昭和天皇が別館「梅鉢亭」の特別室に宿泊されたことで、全国的な名門旅館としての地位を確立しました。その後も、「ＳＰＡ百万石浴殿」などのスパリゾート施設をオープンし、1991年には年商約88億円という最盛期を迎えます。

衰退と破綻

大旅館に育て上げた吉田豊彦氏が亡くなった後、弟の吉田博示氏が社長を引き継ぎます。1996年には熱海に豪華リゾートホテル「あたみ百万石」を開業するなど、事業拡大を続けましたが、バブル崩壊後の不況の影響を受け、徐々に業績は悪化。旅館の営業は「百万石アソシエイト」に移管され、2008年には債権者が破産を申し立てる事態となります。2010年、ホテル百万石の建物を管理する不動産管理会社「北国リゾート」が金沢地裁から破産手続き開始の決定を受け、負債総額は約97億1900万円に達しました。

「百万石アソシエイト」はその後も運営を続けましたが、2012年7月に金沢地裁が北国リゾートの破産管財人への旅館明け渡しを認めたことで、同年9月から休業を余儀なくされました。さらに、2013年にはホテル従業員の賃金未払い問題が発覚し、百万石アソシエイトと同社の社長が最低賃金法違反の疑いで書類送検されるという不祥事も起こりました。

再生への道

破綻後、ホテル百万石は2018年12月に大阪のビッグ総合開発によって全面改装され、「みやびの宿 加賀百万石」と「加賀百万石 別邸・奏」として新たなスタートを切りました。しかし、同社は2020年から翌年にかけて雇用調整助成金を不正受給していたことが発覚し、代表取締役が辞任。その後、宿と同名の新会社「株式会社みやびの宿加賀百万石」が設立され、その後の運営を担っています。2022年10月には、創業家出身の吉田久彦氏が社長に就任し、創業家による再建が図られています。

一方、「あたみ百万石」は、2011年に星野リゾートによって「リゾナーレ熱海」として生まれ変わり、現在もその姿を残しています。

創業家と親族

ホテル百万石の創業家である吉田一族は、ホテル経営に携わった吉田豊彦氏、吉田博示氏以外にも、日学創業者の吉田富雄氏、富士重工副社長の吉田信彦氏、加賀市長の矢田松太郎氏、国際観光ホテル取締役の小黒末雄氏、経済学者の小黒一正氏など、多方面で活躍する著名な人物を輩出しています。また、芦原温泉べにや、片山津温泉矢田屋とは親戚関係にあります。

メディアへの登場

ホテル百万石は、テレビドラマの舞台としても登場しています。

温泉若おかみの殺人推理 - 第11作「加賀山代温泉〜東尋坊 永平寺に殺意の哀歌 密室トリックが解く影笛の謎」（2002年）
温泉女子 - 山代温泉の回（2011年）

これらの作品を通じて、多くの人々にその名を知られることとなりました。

まとめ

ホテル百万石は、栄華を極めた温泉旅館でありながら、時代の変化と経営の難しさによってその歴史に幕を下ろすこととなりました。しかし、その物語は、単なる成功と失敗の歴史ではなく、創業者の情熱、革新、そして、人々の記憶の中に生き続けています。

みやびの宿 加賀百万石
リゾナーレ熱海

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