ホモソーシャル

ホモソーシャル：同性間の絆と社会構造

ホモソーシャルとは、恋愛や性的魅力を伴わない、同性間の親密な関係性を意味する社会学用語です。この概念は、社会における男性の優位性を説明する上で頻繁に用いられ、特に男性同士の強い結びつきや、そこから生まれる排他的な集団意識を指し示す際に用いられます。

この用語が広く知られるようになったきっかけは、イヴ・セジウィックによる「男性のホモソーシャル（同性間の結びつき）への欲望」という議論です。セジウィックは、男性同士の強い絆が、女性を排除したり、女性を道具化したりする構造を支えていると指摘しました。例えば、男性同士が互いに固い友情や連帯感を持ち、その関係性を維持するために女性を介在させる、あるいは女性を共同の所有物として扱うような状況などが挙げられます。

セジウィック以前にも、1976年にはジーン・リップマン＝ブルーメンが、性的な意味合いを持たない、社会的な意味での同性間の選好を「ホモソーシャリティ」として定義していました。セジウィックの議論は、この概念をさらに発展させ、ジェンダー研究の重要なテーマとして確立しました。

ホモソーシャルに見られる特徴と問題点

ホモソーシャルな関係は、しばしば体育会系のような集団において顕著に見られます。強い結束力や連帯感を持ち、集団内部の結束を固める一方で、集団外部の人間、特に女性を排除したり、蔑視する傾向が見られることがあります。このような傾向は、ミソジニー（女性蔑視）やホモフォビア（同性愛嫌悪）と結びつくケースも少なくありません。

ホモソーシャルな関係は、家父長制社会の維持に貢献しているという指摘もあります。男性同士の結束によって、女性は家事労働や子育てといった役割に押し込められ、社会的な地位や権力が制限されるという構造です。セジウィックは、「二人の男が同じ一人の女を愛している時、その二人の男は、女自身よりも互いをはるかに気にかけている」と述べ、男性間の関係が女性の存在よりも優先される状況を鋭く指摘しています。

女性関係へのホモソーシャル概念の適用

近年では、ホモソーシャルの概念を女性同士の関係にも適用する試みが見られます。例えば、東園子は、ボーイズラブやBLを愛好する女性（腐女子）や、宝塚歌劇団のファンコミュニティにおいて、女性同士の強い結びつきや連帯感、排他的な集団意識といったホモソーシャル的な側面を分析しています。これら女性同士のホモソーシャルな関係は、男性社会におけるホモソーシャルとは異なる側面を持ちながらも、集団内部の結束と外部への閉鎖性という共通点を持つと言えるでしょう。

ホモソーシャルに関する考察

ホモソーシャルは、社会におけるジェンダー役割や権力構造を理解する上で重要な概念です。男性社会における優位性を支えるメカニズムの一端を示すと同時に、女性関係における新たな視点も提供しています。しかし、ホモソーシャルは必ずしも負の側面ばかりではありません。同性間の深い友情や連帯感といった肯定的な側面も存在し、その複雑な側面を理解することが重要です。

今後、ホモソーシャルに関する研究は、ジェンダー研究のみならず、社会心理学や組織論など、様々な分野において発展していくことが期待されます。多様な人間関係を理解し、より良い社会を構築するために、ホモソーシャルという概念を正しく理解し、多角的に捉えることが求められます。

関連書籍

イヴ・K・セジウィック 著、上原早苗、亀澤美由紀 訳『男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望』名古屋大学出版会、2001年2月20日
ジョン・ワインガーズ 『女性はなぜ司祭になれないのか　カトリック教会における女性の人権』
* 四方田犬彦・斉藤綾子『男たちの絆、アジア映画 ホモソーシャルな欲望』平凡社, 2004

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