ホルヘ・センプルン

ホルヘ・センプルン：20世紀の記憶を刻んだ作家

ホルヘ・センプルン・マウラ（1923年12月10日 - 2011年6月7日）は、スペインの作家、脚本家、そして政治家として、激動の20世紀を生きました。彼の作品は、スペイン内戦、第二次世界大戦、そしてフランコ体制という、ヨーロッパの暗い時代を背景に、人間の尊厳と抵抗の精神を描き出しています。

スペイン共和派からフランス亡命へ

1923年、マドリードに生まれたセンプルンは、政治的な家系に育ちました。母方の祖父はスペイン首相を5度務めたアントニオ・マウラ、叔父は共和派のリーダーであるミゲル・マウラでした。父もまた共和派であり、外交官としてヨーロッパ各地で活動していました。

しかし、1939年、フランコ率いる反乱軍がスペインを制圧し、第二共和政が崩壊すると、センプルン一家はフランスへ亡命。当時16歳だったセンプルンは、パリで哲学を学びながら、政治的な意識を高めていきました。

レジスタンス運動とブーヘンヴァルト強制収容所

第二次世界大戦中、センプルンはスペイン共産党に入党し、レジスタンス運動に参加。「義勇遊撃隊(FTP)」の一員として、ナチス・ドイツに対する抵抗活動を行いました。

1943年、彼はゲシュタポに逮捕され、ブーヘンヴァルト強制収容所に送られます。そこで彼は、過酷な労働と絶え間ない死の恐怖に直面しながらも、生き抜くための強い意志を持ち続けました。収容所内での国際秘密委員会による蜂起にも参加し、解放に貢献。この経験は、彼の文学作品に深く刻まれ、その後の人生に大きな影響を与えました。

文学と政治の世界へ

戦後、パリに戻ったセンプルンは、ユネスコでの翻訳の仕事を経て、スペイン共産党の秘密工作員としてフランコ政権への抵抗を続けました。しかし、1964年に党の方針から逸脱したとして除名され、再び亡命生活を送ることになります。

フランス亡命後は、政治活動から身を引き、文学に専念。フランス語で自伝的小説や政治評論を発表し、数々の賞を受賞しました。彼の作品は、強制収容所での体験、政治的な活動、そしてヨーロッパの未来に対する考察など、多岐にわたります。

1988年から1991年には、スペイン社会労働党のゴンサレス政権で文化相を務め、文化政策の推進に尽力しました。

作品と遺産

センプルンの代表作には、『大いなる旅』、『ラモン・メルカデルの第二の死』、『ブーヘンヴァルトの日曜日』などがあります。これらの作品は、彼の個人的な経験を基に、人間の尊厳、記憶、そして歴史の教訓を問いかけるものです。また、彼は映画の脚本家としても活躍し、『戦争は終った』や『Z』など、政治的なテーマを扱った作品で高い評価を得ました。

2011年6月7日、パリで死去。彼の遺体は、スペイン共和国の国旗で覆われ、妻の傍らに埋葬されました。ホルヘ・センプルンは、その生涯と作品を通して、20世紀の記憶を未来に伝える、重要な作家の一人として記憶されるでしょう。

主な著書

『大いなる旅』
『ラモン・メルカデルの第二の死』
『フェデリーコ・サンチェス回想録』
『ブーヘンヴァルトの日曜日』
『欧州人』
『雲間の墓標』

受賞歴

フォルメントール賞
フェミナ賞
プラネータ賞
ドイツ書籍協会平和賞
エルサレム賞
オーストリア国家賞ヨーロッパ文学部門

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