ラモン・メルカデル

ラモン・メルカデル（本名: ハイメ・ラモン・メルカデル・デル・リオ、1914年 2月7日 - 1978年10月18日）は、スペイン生まれのソビエト連邦のスパイであり、レフ・トロツキーの暗殺者として歴史に名を刻んでいます。彼は、ソ連では「ラモン・イワノヴィチ・ロペス」として知られ、しばしばメルカデール・デル・リオと表記されますが、これには母親の姓が省略されています。彼の異母妹である女優マリア・メルカデルは、イタリアの映画監督ヴィットリオ・デ・シーカの妻であり、家族の結びつきも注目に値します。

背景と経歴

メルカデルはカタルーニャのバルセロナで生まれました。彼の母、エウスタキア・マリーア・カリダドは商人の娘で、スペイン領キューバで生まれ育ち、父、パウ・メルカデルはバルセロナ近郊の実業家の息子です。両親の別居後、ラモンは母親と共にフランスで青春を過ごしました。若い頃にスペイン共産党員となり、ソ連内務人民委員部（NKVD）のエージェントとしての仕事を始めます。重要な暗殺任務の準備には、母親や彼女の情夫であるナウム・エイチンゴンの指導が影響しました。

メルカデルは、身元を隠すために「ジャック・モルナール」や「フランク・ジャクソン」といった偽名を使いました。彼の優れた知能と強い意志は、エイチンゴンの同僚からも高く評価されており、彼は最終的にトロツキーの暗殺を実行する計画を綿密に練っていきました。

トロツキー暗殺の実行

1940年にメキシコで活動するトロツキーに近づくため、メルカデルはカナダのパスポートでニューヨークへ向かいます。続いて、メキシコに進出し、トロツキーと彼の秘書との信頼関係を築かなければなりませんでした。1940年5月、彼は暗殺の命令を受け、緊張の中で実行の日を迎えます。8月20日、暗殺は決行されます。メルカデルはトロツキーがいる別荘に、「論文」を見せると称し入室しました。その際、彼は7cmのピッケルを取り出し、無防備なトロツキーに襲いかかります。

しかし、トロツキーは意識を失わず、叫び声をあげ、さらにはメルカデルを噛みついて抵抗しました。すぐに警備員に取り押さえられた彼は、傷だらけの状態で、「自分の母親が囚われているために仕方がなかった」と訴えました。このトロツキー暗殺は、メルカデルに歴史的な評価をもたらしますが、その代償は大きいものでした。

捕まるまでのあいだ

メルカデルは逮捕された後、トロツキーを殺害したことを一切認めず、シルヴィアとの結婚を拒否されたことが動機であると主張しました。彼に対するメキシコの裁判所の判決は20年の懲役でしたが、メキシコでは死刑が存在しないため、彼は獄中で長く過ごすこととなります。

1950年9月、指紋分析によって彼の正体が明らかになり、服役期間中彼は真実を明かすことを拒み続けました。1960年に釈放され、キューバに移送されたメルカデルは、やがてソ連に戻ります。

ソ連での生活

ソ連ではマルクス・レーニン主義大学の職員として働いたものの、時代背景にはスターリンの死後の混乱がありました。彼の希望していたソ連共産党への加入は拒まれ、メルカデルの立場は不安定でした。その後、1970年代半ばにフィデル・カストロの招待を受けてキューバに移り、外務省の顧問として活動します。

1978年、肺癌により死去したラモン・メルカデルはモスクワのクンツェヴォ墓地に葬られました。彼の確固たる信念と暗殺者の役割が、今もなお議論を呼んでいます。

参考文献

- 『暗殺者のメロディ』（1972年、監督: ジョセフ・ロージー）
- ドミトリー・ヴォルコゴーノフ著『トロツキーその政治的肖像』（朝日新聞社、1994年）
- レオナルド・パドゥーラ著『犬を愛した男』（水声社、2019年）

彼の人生は、思想や信念が思わぬ形で人々の運命を変えることを示しています。

もう一度検索