ホンダ・ズーク

ズーク(ZOOK) - 本田技研工業が放った、個性的なスクーター

1990年代初頭、日本のバイク市場に突如として現れた個性派スクーター、ズーク(ZOOK)。本田技研工業が製造販売したこのモデルは、その独特のデザインとコンセプトで、多くのバイクファンを魅了しました。しかし、その販売期間はわずか1年ほど。その短い生涯と魅力を紐解いていきましょう。

デザインとコンセプト

ズークの車名は、「～ずく」という表現と、気軽に履けるスニーカー（ズック）をイメージして名付けられました。その名の通り、気軽に乗れることをコンセプトに開発されたこのスクーターは、スケートボードを思わせる斬新なデザインが最大の特徴です。フロントカバーを省略したシンプルながらもスタイリッシュな車体は、2本の柱状のハンドルとシートで構成され、当時としては非常に独創的なスタイルでした。

シートは2段階に高さ調整が可能で、停車時にはヘルメットをホルダーで施錠できるという、実用的な機能も備えていました。タイヤは前後とも70/100-8サイズで、トレッドパターンは靴底をモチーフにしたデザインとなっていました。こうした細部にもこだわり抜いたデザインは、ズークの個性と魅力を際立たせていました。

エンジンと機能性

ズークに搭載されたのは、タクトシリーズと共通のAF05E型空冷2ストローク単気筒エンジンです。しかし、ズークのために最高出力3.3ps/6,000rpm、最大トルク0.45kg-m/4,500rpmにチューニングされ、扱いやすい特性に仕上がっていました。始動方式はキックスターターのみで、始動と同時にヘッドライトが自動点灯する機構も備えていました。さらに、寒冷地での始動性を高めるオートチョークや、エンジン停止時に燃料供給を遮断するオートコック機構（容量2Lの燃料タンク）なども搭載され、実用性も考慮されていました。

販売と生産終了

1989年の東京モーターショーで参考出品されたMS50をベースに開発されたズークは、1990年2月19日に発表され、同年2月26日より89,000円の標準販売価格で発売されました。当時、若者を中心に人気を集めたタレントの所ジョージをイメージキャラクターに起用するなど、積極的なマーケティング戦略も展開されました。しかし、販売期間は1年ほどで生産を終了しました。その理由については明確な情報がありませんが、販売戦略や市場の動向などが影響したと考えられます。

ズークが残した足跡

短命に終わったとは言え、ズークは本田技研工業の歴史において、独特の個性とデザインで重要な位置を占めるモデルです。その斬新なスタイルは、後年のスクーターデザインにも少なからず影響を与えたと言えるでしょう。また、所ジョージを起用したCMは、当時話題となり、多くの人の記憶に残っています。ズークは、本田技研工業の挑戦と革新性を象徴する、忘れがたい存在と言えるのではないでしょうか。現在では生産終了となっているため、中古市場で探すしか入手方法は無いものの、その独特の存在感は、多くのバイク愛好家にとって魅力的な一台として、語り継がれています。

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