ホンダ・ブロード

ホンダ・ブロード：実用性重視のスクーター、その光と影

ホンダが1995年1月30日に発売したブロードは、スクータータイプのオートバイです。同時期に発売されたキャビーナの姉妹車種にあたる本車は、キャビーナと共通の設計思想を踏襲しつつ、屋根を廃止した点が最大の特徴となっています。

キャビーナとの違いと設計思想

ブロードとキャビーナは、基本的な設計を共有しています。大容量のメットインスペース、12インチのフロントホイール、大型のウインドスクリーンなどは両車種に共通しています。排気量も49ccと89ccの2種類がラインナップされました。しかし、キャビーナが屋根を備えていたのに対し、ブロードは屋根を廃したことで、車両重量の軽減と空力性能の向上を実現しています。

キャビーナは、屋根によって重心が高く、ローリングに対する慣性モーメントが大きくなっていました。また、前面投影面積も増加していました。ブロードでは屋根を取り去ることで、約10kgもの軽量化に成功。これにより、キャビーナで風洞実験を通じて実現された空気抵抗の低減効果が、より顕著に現れました。大型ウインドスクリーンも相まって、当時のスクーターとしては最小限の空気抵抗を実現。見た目とは裏腹に、標準的な50ccスクーターよりも低い空気抵抗を実現し、同クラスの競合車種を上回る巡航燃費を達成しました。

さらに、ブロードは「低くゆったり」をコンセプトに設計されています。ホイールベースは1280mmと、同社のスペイシー125（1255mm）よりも長く、シート高は670mmと低く抑えられています。バッテリーや燃料タンクなどの重量物を車体中央部に集中配置することで、低重心設計も実現しました。

充実の収納性と装備

1名乗りのシート下には、公称36Lの大容量メットインスペースを備えています。これは、標準的な50ccスクーターの約2倍の容量です。ハンドル直下左右には、容量約1Lの鍵付きグローブボックス、メーター両脇には小物入れも装備。バックミラーはボディーマウント式の折りたたみ式を採用するなど、使い勝手の良さを追求した設計となっています。

生産期間と改良

ブロードは目立ったモデルチェンジを実施することなく、細部の改良や部品の変更が数回にわたって行われました。特に、左後部のサイドカバーはエアクリーナーとの干渉問題が発生したため、後期生産車では下端部を外側に広げた改良版が採用されています。前期型と後期型は、このサイドカバーの違いによって判別可能です。50ccモデルでは、1998年6月以降の生産車にキャブレターユニットの変更が施され、これが最終仕様となりました。

販売と生産終了

ブロードは、250ccクラス以上の充実した装備と、標準的な50ccスクーターよりも優れた使い勝手を両立した実用的なスクーターとして設計されました。しかし、その一方で、製造コストの高騰から、発売当初の価格は約20万円と、標準的な50ccスクーターの約2倍という高価格帯となりました。また、排気量に対して車体が大きく重いため、取り回しが難しいという印象を与えたことも、販売の低迷につながりました。

1999年には排ガス規制が強化され、ブロードと共通のエンジンを搭載したリードは、触媒付きの新エンジンを搭載した上でフルモデルチェンジされました。一方、ブロードは生産台数が少なく、販売実績の回復が見込めなかったため、1999年7月に生産終了となりました。ブロードは、優れた機能性と実用性を備えていたものの、価格と車体の大きさという課題を克服することができず、市場で成功を収めるには至りませんでした。 販売戦略や市場環境も、生産終了の大きな要因となったと言えるでしょう。

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