ホンダ・FT

ホンダFTシリーズ：フラットトラックレーサーを彷彿とさせるロードスポーツモデル

ホンダが過去に製造・販売していたオートバイシリーズ「FT」は、アメリカで人気のフラットトラックレースマシンをデザインモチーフとした、個性的なロードスポーツモデルです。本記事では、特に日本国内で販売されていたFT400と、北米輸出仕様のFT500、そしてVT500FTについて、詳細な解説を行います。

開発コンセプトとモデルバリエーション

FTシリーズは、既存のデュアルパーパスモデルであるXLシリーズをベースに開発されました。一部コンポーネントを共有しながらも、ロードスポーツモデルとして独自の進化を遂げています。主なモデルとして、排気量497ccのFT500（北米輸出メイン）と、日本の免許制度に合わせ排気量398ccとしたFT400（日本国内専売）が存在しました。北米向け輸出モデルには「アスコット」というペットネームが与えられていました。

FT400/FT500：走りとスタイルの融合

1982年6月1日に発売されたFT400/FT500。その車体構造は、XLシリーズ同様の鋼管ダイヤモンド型フレームを採用。足回りには、前輪に円筒空気ばね併用テレスコピックフォークとスタビライザーを、後輪にはFVQダンパーと呼ばれる、板バネとオリフィスに加えコイルスプリングとチェックバルブによる可変式減衰力特性を持つサスペンションを装備。19インチ(前)と18インチ(後)のアルミキャストホイールが、スポーティなルックスを際立たせています。

ブレーキシステムは、フロント・リア共にシングルディスクブレーキで、デュアルピストンキャリパーを採用。フロントローター径296mm、リア276mmの大径ローターにより、確実な制動力を確保しています。

パワープラントは、空冷4ストロークSOHC単気筒エンジンを搭載。FT500はXL500S/XL500Rと、FT400はXL400Rとエンジンを共有しつつ、ロードスポーツモデルとしての性格に合わせ、チューニングが施されています。また、始動方式はセルモーター式に変更されています。

エンジンスペックは、FT500が最高出力33ps/6,500rpm、最大トルク4.0kg-m/5,000rpm、FT400が最高出力27ps/6,500rpm、最大トルク3.2kg-m/5,000rpm。5段マニュアルトランスミッションとチェーンドライブにより、後輪へとパワーを伝達します。

VT500FT：水冷V型2気筒エンジンを搭載した北米向けモデル

北米市場向けに輸出されたVT500FTは、FT500とは異なる水冷V型2気筒エンジン（491cc）を搭載。外観はFT500と非常に似ていますが、リヤブレーキがドラム式で、ドライブ方式がシャフトドライブである点が大きく異なります。型式名はPC10です。

短い販売期間と独特の存在感

FTシリーズはマイナーチェンジも経ずに、1985年までに製造販売が終了しました。しかし、その独特のスタイリングと、フラットトラックレーサーを彷彿とさせる力強い走りは、多くのライダーに記憶されています。現在では希少なモデルとなり、中古市場でも高い人気を誇っています。

まとめ

ホンダFTシリーズは、アメリカンフラットトラックレースというニッチな世界観を取り込み、独自路線を歩んだ個性的なモデルです。その短い販売期間にも関わらず、独特のスタイルと魅力的な走りで多くのファンを魅了し続け、ホンダのオートバイ史に重要な一ページを刻んでいます。 FTシリーズは、単なる交通手段を超えた、所有する喜びと、ライディングの楽しさを味わえる一台だったと言えるでしょう。 その希少性も相まって、現在ではコレクターズアイテムとしての価値も高く評価されています。

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