ホンダ・NSF250R

NSF250R：ホンダの競技専用ロードレーサー

ホンダ・レーシング（HRC）が2011年12月に発売したNSF250Rは、4ストローク250cc単気筒エンジンを搭載した、競技専用のロードレーサーです。MotoGPクラスのレギュレーション変更に伴い、従来の2ストローク125ccマシンに代わる「Moto3」クラス参戦を目的として開発されました。同時に、全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラス（旧GP125クラス）のエンジン規則変更にも対応しています。

開発の背景と技術

2012年、MotoGPはレギュレーションの大幅な変更を実施しました。これにより、長年親しまれてきた2ストローク125ccエンジンによる「GP125」クラスが廃止され、4ストローク250ccエンジンの「Moto3」クラスが新設されました。この新クラスへの参戦を視野に入れ、HRCはNSF250Rの開発に着手したのです。

開発にあたっては、実績のあるRS125Rの技術をベースに、様々な改良が加えられました。特にエンジンの搭載方法が特徴的で、車体後部に15度傾けて搭載することで、空いた前部スペースに吸気系統を配置する設計を採用しています。また、コストを抑えるため、タイヤ、ホイール、カウルなど多くの部品をRS125Rと共通化しました。

販売と価格

発売当初、欧州での販売価格は2万3600ユーロ（約276万円）でしたが、日本での価格は174万9510円（税込）と、比較的安価に設定されました。その後、数度の価格改定を経て、2020年時点での販売価格は147万9500円（税込）となっています。 特筆すべきは、ホンダがエンジン単体も販売している点です。Moto3クラスでは、独自開発のフレームにNSF250Rのエンジンを搭載して参戦するチームも多く存在します。

しかし、2014年以降Moto3クラスで使用されているNSF250RWは、KTMのワークスマシンに対抗するため、事実上新規開発された別個のマシンとされています。名称こそNSF250Rを継承していますが、エンジンを始め、共通パーツはほとんどないと言われています。

レース戦績と競争環境

NSF250Rは、Moto3クラス本格参戦に先立ち、2011年の全日本ロードレース選手権第3戦にテスト参戦しました。このデビュー戦で仲城英幸選手が3位表彰台を獲得、さらに藤井謙汰選手が同年のJ-GP3クラスチャンピオンに輝き、そのポテンシャルの高さを示しました。

2012年Moto3シーズンでは、KTMやBeOnといったメーカーがMoto3用マシンの開発を表明していましたが、ヤマハ、スズキ、アプリリアといった有力メーカーの動きは鈍く、HRCが開発面で先行すると予想する関係者もいました。実際、シーズン序盤は好成績を収め、マーベリック・ビニャーレス選手がFTRホンダのマシンで5勝を含む7勝を挙げました（勝利は全てFTRホンダ）。しかし、サマーブレイク以降はKTMに押され、未勝利に終わり、コンストラクターズタイトルはKTMに奪われました。

まとめ

NSF250Rは、MotoGPレギュレーション変更という大きな転換期に開発された、ホンダの技術力の結晶です。コストパフォーマンスにも優れた設計は、多くのチームに採用され、Moto3クラスに大きな影響を与えました。その後継機であるNSF250RWの登場も、Moto3クラスの競争激化を象徴する出来事と言えるでしょう。 開発経緯、販売価格、レースにおける活躍、そしてライバルメーカーとの競争状況などを詳細に理解することで、このマシンがモーターサイクル史に刻んだ足跡をより深く知ることができます。

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