ホンダ・NSR250R

ホンダNSR250R：2ストローク黄金時代の象徴

ホンダNSR250Rは、[1986年]]から1999年まで製造された、2ストロークエンジンを搭載したレーサーレプリカバイクです。その名は、New Sprint Racingの略で、[[ロードレース世界選手権]で活躍したワークスマシン、NSR500を彷彿とさせるデザインと高い走行性能で、多くのライダーを魅了しました。

開発背景：ヤマハRZへの対抗と2ストローク技術競争

1980年代前半、ホンダはWGPにおいて2ストロークエンジンのNS500で成功を収めていました。しかし、市販車市場ではヤマハのRZ250/350が人気を博しており、ホンダは対抗馬として4ストロークエンジンのCBX400FやVT250Fを投入するも、2ストローク車種への需要に応えることができませんでした。MVX250Fも開発されましたが、エンジン焼きつきなどの問題で失敗に終わります。その後、NS250F/Rを発売することで販売を挽回しますが、ヤマハがTZR250を投入したことで再び劣勢に立たされます。この状況を打破するため、ホンダは1986年、NSR250Rを発売しました。

NSR250Rは、発売と同時にその圧倒的な速さで人気を博し、ヤマハTZR250R、スズキRGV250Γとの激しい2ストローク技術競争の火蓋を切りました。1987年から1990年にかけては、毎年モデルチェンジが行われ、性能向上とデザイン刷新が繰り返されました。この競争は、2ストロークバイク市場を活性化させ、ホンダはNSR250Rの大ヒットにより市場トップを獲得します。

各モデルの特徴：MC16からMC28まで

NSR250Rは、型式によってMC16、MC18、MC21、MC28の4つの主要モデルに分けられます。市場では、MC18を1988年と1989年モデルに分けて、1～5型と呼ばれることもあります。どのモデルもセルスターターは搭載されておらず、キックスターターのみでの始動でした。

MC16 (NSR250RG)：初代モデル

1986年登場の初代モデル。アルミツインスパーフレームと、水冷2ストロークV型2気筒エンジンを搭載。競技車両RS250Rを公道用にアレンジした、レーシーなスタイルが特徴でした。クランクケースなどには「HONDA RACING」の刻印があり、競技車両との技術共有をアピールしました。

MC18 (NSR250RJ-RK)：PGMキャブレター搭載

1987年11月に発表された2代目モデル。テールランプが丸目2灯に変更されました。1988年モデルは、世界初のコンピューター制御PGMキャブレターを搭載し、点火系、排気デバイス(RCバルブ)、オイルポンプもコンピューター制御されました。フレームは、初代モデルから変更され、フロントブレーキは対向4ポットキャリパーになり、フロントフォーク径は41mmに拡大されました。最高出力は初代モデルと同じ45psでしたが、リミッターの解除が容易だったこともあり、圧倒的な速さを誇りました。1989年モデルでは、PGM-IIキャブレターに進化し、出力特性が向上しました。さらに、SPモデルではマグネシウムホイールが採用され、1989年モデルからは乾式多板クラッチと減衰力調整機構付きサスペンションが装備されました。HRCより少数限定で販売されたNSR250RKは、TT-F3レース参戦用のコンプリートマシンで、RS250Rに匹敵する性能を誇りました。

MC21 (NSR250RL-RN)：ガルアーム採用

1990年2月発売の3代目モデル。アッパーカウルはスラントノーズとなり、ヘッドライトは2灯薄型に変更。リアシートカウルは上方へ跳ね上がり、よりレーシーなデザインとなりました。大きな変更点は、排気効率を高めるため、スイングアームを「への字」に屈曲させたガルアームの採用です。エンジンも主要部品が新設計され、出力特性を制御するコンピューターはPGM-IIIに進化しました。STD、SE、SPの3グレードが設定されました。ジムカーナ競技でも高い人気を誇りました。

MC28 (NSR250R-RT)：最終モデル

1993年登場の最終モデル。ガルアームから片持ち式スイングアームのプロアームに変更されました。これは、耐久レーサーRVFからのフィードバックと、ヤマハのガルアーム特許の事情によるものです。エンジンは自主規制により40psにパワーダウンしましたが、社外チャンバーで性能を向上させることが可能でした。エンジンマネージメントシステムはPGM-IVに進化し、2輪車初となるカードキー(PGMメモリーカード)が採用されました。STD、SE、SPの3グレードが設定され、1999年に生産終了となりました。

レーサーレプリカブームの終焉とその後

1990年代中盤、レーサーレプリカブームは下火となり、多くのレーサーレプリカモデルが生産終了となりました。NSR250Rも、1999年に国内販売を終了しました。しかし、2ストロークレーサーレプリカの希少性から、現在では状態の良い中古車が新車時以上の価格で取引されることもあります。

NSR250Rは、その高い性能とレーシーなデザイン、そして2ストロークエンジン独特のサウンドで、多くのライダーに愛された、伝説的なバイクとして記憶されています。その歴史は、日本のバイク史において重要な一ページを刻んでいます。

もう一度検索