ホンダ・NV

ホンダNVシリーズ：日本発の本格アメリカンへの挑戦

ホンダが1980年代に製造・販売したオートバイシリーズ「NV」は、それまでの日本のアメリカンバイクとは一線を画す存在でした。本稿では、初期のアメリカンタイプであるNVシリーズに焦点を当て、その革新性と市場での評価について解説します。

時代の背景とNVシリーズの誕生

1980年代以前の日本のアメリカンバイクは、ロードスポーツモデルをベースに、ハンドルやシートを変更する程度の、いわば簡易的なものでした。しかし、NVシリーズはそうした流れを大きく変える存在となりました。当時のホンダは、本場のアメリカンバイクについてまだ十分な理解を持っていませんでしたが、独自の解釈で本格的なアメリカンタイプの開発に挑んだのです。その結果生まれたNVシリーズは、独特のデザインと性能で、日本のバイクファンに新鮮な驚きを与えました。一方、アメリカ合衆国では、長距離走行に適した快適性から高い評価を得ました。

NVシリーズの特徴：水冷VツインSOHC3バルブエンジンの採用

NVシリーズの最大の特徴は、水冷VツインSOHC3バルブエンジンです。NV400カスタムでは52度、NV750カスタムでは45度のV狭角を採用し、位相クランクにより一次振動を低減。また、シャフトドライブを採用することで、スムーズな走行を実現しました。シリンダーフィンは水冷であるため不要でしたが、デザイン上のアクセントとしてあえて取り付けられています。

各モデルの詳細

NV400カスタム (1983年発売): NV750カスタムのコンセプトを受け継いだモデル。最高出力43馬力/9500rpm。振動の少なさが特徴でしたが、一部では「退屈」との評価も。レーサーレプリカブームの波に乗り切れず、販売成績は低迷しました。1985年にマイナーチェンジを経て、1988年にはスティードにバトンタッチしました。スティードのNV400C型式はありますが、エンジン仕様などは異なるため別物と認識されています。(NV400カスタム：ボア×ストローク71.0×50.4mm、スティード：64.0×62.0mm)

NV400SP (1983年発売): ヨーロピアン仕様。NV400カスタムとほぼ同等のエンジンを搭載し、最高出力は44馬力/9500rpm。CBX400Fと同じフロントブレーキとホイールを採用していましたが、200kg近い車重や腰高な車体から、日本では人気が出ませんでした。1987年頃には生産終了となりました。

NV750カスタム (1982年発売): アメリカ市場をメインターゲットとしたモデル。66馬力/7500rpmのエンジン、6段ミッション、フロント19インチホイールに油圧式ダブルディスクブレーキなど、当時のアメリカンとしては充実した装備を誇りました。リアは15インチホイールに機械式ドラムブレーキ、タイヤサイズは140/90と、当時としては太いタイヤを採用。独特のインジケーター配置やマフラーデザインも特徴です。シート高760mmと、現在のアメリカンバイクに比べてかなり腰高でした。

NV750カスタムのエンジンと特徴

NV750カスタムのエンジンは、SOHC3バルブ2プラグ、V狭角45度、位相クランクを採用。油圧式バルブクリアランスオートアジャスタによりメンテナンスフリーを実現しました。独特な9個のインジケーター配置、左右二本出しマフラー、9.5Lのメインタンクと3Lのサブタンクを備えていました。振動はハーレーダビッドソンに比べて大幅に抑制されていましたが、4気筒バイクのような低振動ではありませんでした。

後継モデルとNVシリーズの影響

1986年には、NV750カスタムのエンジンを流用したシャドウが発売されました。シャドウは、NV750カスタムよりも低速トルク重視のセッティングに変更され、シート高も低く設定されました。また、アメリカ市場向けには、NV750カスタムをベースに排気量を拡大したVT1100カスタムも存在しました。NVシリーズは、後のホンダアメリカンモデル、特にスティードやブロスシリーズに大きな影響を与えました。

まとめ

ホンダNVシリーズは、日本のバイクメーカーが本格的なアメリカンバイク開発に挑んだ、重要なモデルでした。その革新的な設計思想と個性的なデザインは、日本のバイク業界に大きな影響を与え、後のアメリカンバイクの発展に貢献したと言えるでしょう。日本市場での評価は必ずしも高くなかったものの、アメリカ市場では高い評価を受け、ホンダのアメリカンバイク戦略における重要なステップとなりました。それぞれのモデルの特徴を理解することで、ホンダのアメリカンバイクの歴史をより深く理解することができます。

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