ホーリー・マウンテン

映画『ホーリー・マウンテン』解説

1973年に公開されたメキシコ・アメリカ合作の映画『ホーリー・マウンテン』は、アレハンドロ・ホドロフスキーが監督、脚本、主演を務めた、シュールレアリスムと宗教的象徴に満ちた作品です。ルネ・ドーマルの小説『類推の山』を原作とし、ホドロフスキー自身が「アングラ映画」と位置づけ、その強烈な映像表現と難解なストーリーから、カルト的な人気を博しています。ビートルズのジョン・レノンやジョージ・ハリスンもその独創性を支持し、制作資金を援助したことでも知られています。

あらすじ

物語は、錬金術師（ホドロフスキー自身が演じる）が、盗賊を意味する男（タロットカードの愚者を暗示）を弟子にし、不死の秘密を求めて「聖なる山」を目指すという壮大な旅を描きます。盗賊は、砂漠でハエにたかられているところを発見され、手足のない小人症の男と出会い、街で芸を披露して金を稼ぎます。その街は、独裁的な支配下にあり、残酷な光景が日常的に繰り広げられていますが、人々はそれを観光客のようにカメラに収めています。

盗賊の姿がイエス・キリストに似ていたため、商人に利用され、キリスト像として売り出されます。自らの像に囲まれ、絶望した盗賊は、像を破壊し、一体の像を担いで街を彷徨います。そこで出会ったサルを連れた娼婦と共に、荒れ果てた教会へ向かいます。教会では、ゲイのダンスパーティーが行われており、盗賊は自分の像を祭壇に飾ろうとしますが、司祭に追い出されます。

その後、盗賊は錬金術師と出会い、錬金術の知識と魂の鍛錬を学びます。錬金術師は、不死を求めて「聖なる山」へ旅立つ計画を立てており、盗賊を伴い、7人の富豪たちを紹介します。彼らはそれぞれ惑星の擬人化であり、その否定的な側面を象徴しています。

金星：化粧品会社社長で肉体的快楽を追求するフォン。
火星：武器商人であり、レズビアンのイスラ。
木星：芸術家であり、快楽主義的なクレン。
土星：玩具工場経営者で、軍事教育用玩具を作るセル。
天王星：大統領の財務顧問で、強圧的な母親を持つバーグ。
海王星：警視総監で、人間の睾丸をコレクションするアクソン。
* 冥王星：建築家で、ミッキーマウスの子供たちを侍らせるルート。

錬金術師は、彼らを聖なる山へ誘い、不死の秘密を奪う計画を語り、財産を焼却させ、精神的な訓練を施します。盗賊は、街で出会った娼婦に追われるも、錬金術師たちと共にロータス島へ向かいます。そこは、聖なる山を目指す人々が、快楽と堕落に溺れる場所でした。一行は、山の険しい道のりを進む中で、それぞれの執着や恐怖に直面し、幻覚を見ます。頂上間近で、錬金術師は盗賊に自分の首を斬るように指示しますが、それは羊の頭でした。錬金術師は、盗賊に「頂上は目指さず、愛する人と帰れ」と告げます。残った修行者たちが、ローブを羽織った賢者たちに襲い掛かると、それはマネキンと錬金術師でした。錬金術師は、不死は得られなくても現実を得ることができたと語り、「これは映画だ」と第四の壁を壊し、カメラクルーを映し出して、観客に現実世界に帰るように促します。

作品の特徴

『ホーリー・マウンテン』は、その独創的な映像表現と難解なストーリーで、観る者に強烈な印象を与える作品です。シュールレアリスム、宗教的象徴、錬金術、グノーシス主義、タロットカードなど、様々な要素が入り混じり、独特の世界観を構築しています。ホドロフスキーは、本作を「精神的な探求」の手段として捉え、観客に自己の内面を見つめ直すことを促しています。

また、撮影中にLSDやマジックマッシュルームを使用したという逸話も、この映画のカルト的な魅力を高めています。

影響と評価

公開当初は賛否両論を呼びましたが、その独創性と映像美は高く評価され、カルト映画として世界中で支持されています。ジョン・レノンが制作を支援したことや、その後の映画監督たちに大きな影響を与えたことでも知られています。

レビュー収集サイトRotten Tomatoesでは、83%の高評価を獲得しており、「象徴性に富んだ視覚的快楽」と評されています。

その他

この映画は、公開から30年以上、広く公開されることはありませんでしたが、2006年にリストア版が上映され、DVDやBlu-rayも発売されています。日本でも1988年に初公開され、2010年にはデジタルリマスター版が公開されました。

『ホーリー・マウンテン』は、単なる映画の枠を超えた、芸術作品であり、観る者の心に深く刻まれる、忘れがたい体験となるでしょう。

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