ボイド銀河

宇宙には、銀河が網の目のように連なる巨大な構造、すなわち銀河フィラメントや超銀河団が存在します。私たちの天の川銀河を含む多くの銀河は、こうした密度の高い領域に集まっています。一方、銀河フィラメントが囲む巨大な空間は「超空洞（ボイド）」と呼ばれ、文字通り物質の密度が極めて低い領域です。この超空洞は、文字通り何もない空間ではなく、ごくわずかな物質や、そして非常に数が少ないながらも銀河が存在しています。こうした、超空洞の内部に位置する銀河が「ボイド銀河（Void galaxy）」です。

超空洞は宇宙体積の大部分を占めるにもかかわらず、そこに存在する銀河は極めて稀です。初めて発見されたボイド銀河としては、I Zw 81やマーカリアン845などが挙げられます。現在までに数十個のボイド銀河が確認されており、その多くは「うしかい座ボイド」という特に広大な超空洞内で見つかっています。

ボイド銀河は超空洞内で完全に孤立しているわけではありません。通常の銀河フィラメントに比べればずっと希薄ではありますが、銀河間ガスで構成された「ボイドフィラメント」と呼ばれる構造によって、いくつかのボイド銀河は互いに接続され、貧弱な銀河群を形成していることもあります。しかし、通常の銀河が密集する銀河フィラメント内の銀河とは異なり、ボイド銀河間の距離は非常に離れています。この大きな隔たりがあるため、ボイド銀河は他の銀河からの影響や物質の混入をほとんど受けず、周囲に存在する純粋な銀河間物質を取り込みながら生成・進化していったと考えられています。

ただし、ボイド銀河の起源については、別の可能性も示唆されています。特に、現在発見されているボイド銀河の多くが存在するうしかい座ボイドでは、銀河がボイドを貫くチューブ状の構造を形成していることが観測されています。これは、うしかい座ボイドが、もともと存在した複数の小さなボイドが合体して形成された際に、かつての銀河フィラメントの名残がその場所に残った可能性を示唆しています。もしそうであれば、現在ボイド銀河として観測されている銀河は、元々は通常の銀河フィラメントに位置していた銀河が、周囲の物質が拡散して超空洞が拡大した結果、取り残された存在であるとも考えられます。

通常の銀河フィラメントに存在する銀河は、周囲の密度の高い環境から物質が供給されることで、銀河中心部の超大質量ブラックホールが活発になり、それによって銀河全体の星形成が促されると考えられています。一方、ボイド銀河に接続するボイドフィラメントも、通常の銀河フィラメントと同様の質量を持つダークマターによって構成されていると考えられていますが、ボイド銀河は銀河間の距離が離れているため、銀河同士での激しい物質の奪い合いがありません。このため、より多くの銀河間物質が個々の銀河に効率的に流れ込むと考えられています。この物質供給の特徴から、ボイド銀河は通常の銀河よりも星形成が活発で、結果として明るい銀河が多いと推定されます。実際に、観測されているボイド銀河のいくつかには、中心核が非常に明るく輝く活動銀河が見つかっており、X線観測によってその存在が確認されています。これは、孤立した環境での豊富な物質供給が、銀河の活動性を高めている可能性を示唆しています。

現在、詳細が分かっているボイド銀河のほとんどは、うしかい座ボイドという特定の超空洞内で発見されていますが、今後の観測技術の進展によって、他の超空洞でもボイド銀河がより多く発見されることが期待されています。超空洞という極限的な環境に存在するボイド銀河は、宇宙の大規模構造における銀河の形成や進化の過程を理解する上で、重要な手がかりを与えてくれる存在と言えるでしょう。

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