ボリス・エイヘンバウム

ボリス・ミハイロヴィチ・エイヘンバウム：20世紀ロシア文学研究の巨匠

ボリス・ミハイロヴィチ・エイヘンバウム (1886年10月4日 - 1959年10月24日) は、20世紀ロシア文学研究において、抜きんでた功績を残した文芸学者です。ロシアのヴォロネジでユダヤ人の医師の家庭に生まれ、幼少期と青年期を故郷で過ごしました。

彼の学問への道は多岐に渡ります。サンクトペテルブルクの軍医科アカデミーやレーズガフト私立高等学校生物学部へ入学するなど、医学や生物学にも関心を抱いていました。並行して音楽にも熱心に取り組み、ヴァイオリン、ピアノ、声楽を学んだといいます。その後、サンクトペテルブルク帝国大学歴史・文献学科へ進学、当初はスラヴ＝ロシア学科を専攻しましたが、ロマンス＝ゲルマン学科へ転向、再びスラヴ＝ロシア学科に戻るなど、揺れ動く進路の中で最終的に文献学の道を志しました。1912年に大学を卒業すると、その後、様々な定期刊行物に論文を発表し、教員として教育活動にも携わります。

エイヘンバウムの転機は1917年に訪れました。彼は「オポヤーズ（詩的言語研究会）」のメンバーと交流を持つようになり、1918年には正式にオポヤーズに加わります。オポヤーズでの活動を通して、形式主義と呼ばれる文学研究の方法論を確立する上で重要な役割を果たしました。この時代、彼は「文芸風俗（ブィト）」という概念にも関心を深め、ユリイ・トゥイニャーノフらとの活発な議論を繰り広げました。

オポヤーズでの活動後も、エイヘンバウムはテキスト批判への関心を持ち続け、精力的に研究を続けました。しかし、彼の研究人生は常に平坦なものではありませんでした。1947年から1949年にかけては、「コスモポリタニズムとの戦い」の犠牲者となり、密告を受け、出版活動が制限されるなど、困難な時期を経験します。それでも彼は研究を続け、レニングラードで73歳で生涯を閉じました。

エイヘンバウムの著作は多岐に渡り、プーシキン、ゴーゴリ、トルストイ、レフ・トルストイ、レスコフ、O・ヘンリーなど、ロシア文学の古典作家から、近代作家まで幅広く研究対象としています。彼の代表的な著作として、『プーシキン—詩人としての反乱と1825年の蜂起』（1907年）、『ゴーゴリ「外套」の構造』（1919年）、『ロシア抒情詩のリズム』（1922年）、『若いトルストイ』（1922年）、『形式主義の方法に関する理論』（1925年）、『文学的生活』（1927年）などがあります。これらの著作は、ロシア形式主義の理論と実践を体系的に示し、文学研究に大きな影響を与えました。

多様な学問的関心、揺れ動く人生、そして困難な時代を経験しながらも、彼は研究を続け、ロシア文学研究に不滅の足跡を残しました。彼の著作は、今日でも世界中の研究者によって読み継がれ、その影響は現代文学研究にまで及んでいます。彼の生涯と業績は、20世紀のロシア文学研究史において、無視することのできない重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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