ボルベール〈帰郷〉

『ボルベール〈帰郷〉』：運命に翻弄される女性たちの物語

ペドロ・アルモドバル監督による2006年のスペイン映画『ボルベール〈帰郷〉』は、故郷ラ・マンチャを舞台に、血縁で結ばれた三世代の女性たちの複雑な人生を描いた人間ドラマです。タンゴの楽曲「Volver」を題材に、家族愛、裏切り、そして運命の残酷さを鮮やかに描き出しています。

物語の中心となるのは、マドリードで夫と娘と暮らすライムンダです。彼女は、姉のソレ、そして娘のパウラと共に、3年前に火事で亡くなった両親の墓参りをしにラ・マンチャの小さな村を訪れます。ライムンダには、老いて独り暮らしをする伯母をマドリードに連れてくるという別の目的もありましたが、伯母の頑なな抵抗にあい、計画は頓挫します。

マドリードに戻ったライムンダは、夫パコの様子がおかしいことに気づきます。パコは解雇され、精神的に不安定な状態に陥っていました。そして、予期せぬ事件が起こります。娘のパウラが、何らかの理由で夫を殺害したのです。

一方、ソレのもとには、伯母の急死の知らせが届きます。しかし、その知らせには不自然な点がありました。あまりにも迅速で、完璧な手続きが済まされていたのです。疑念を抱いたソレは、ライムンダに連絡を取ろうとしますが、連絡が取れません。

ソレはひとりでラ・マンチャに向かい、伯母の家に到着すると、そこで衝撃的な光景を目の当たりにします。そこには、伯母の死の真相、そしてライムンダが隠していた秘密が隠されていました。

主な登場人物

ライムンダ (ペネロペ・クルス): 物語の中心人物。マドリードで夫と娘と暮らす、自己中心的で強い意志を持つ女性。空港で働きながら平凡な生活を送っていましたが、娘の犯した罪によって人生は大きく変わります。
ソレ (ロラ・ドゥエニャス): ライムンダの姉。温和な性格で、独身。マドリードで無許可の美容室を経営しています。ライムンダとパウラとは仲が良く、定期的に故郷を訪れていました。
パウラ (ヨアナ・コボ): ライムンダの娘。14～15歳。携帯電話が手放せない普通の少女ですが、家族の運命を大きく変える事件を引き起こします。
イレーネ (カルメン・マウラ): ライムンダとソレの母親。3年前に火事で亡くなっています。しかし、物語の後半で、彼女の存在が再び物語に影を落とします。
パウラ伯母さん (チュス・ランプレアベ): イレーネの姉。ラ・マンチャで一人暮らしをしている、目が不自由で痴呆が進んだ高齢女性。
アグスティーナ (ブランカ・ポルティーヨ): ラ・マンチャの村に住む女性。パウラ伯母さんの隣人で、ライムンダやソレとも親しい間柄です。
* パコ (アントニオ・デ・ラ・トーレ): ライムンダの夫。解雇されたことをきっかけに精神的に不安定になり、事件の引き金となります。

『ボルベール〈帰郷〉』は、予想外の展開と衝撃的な真実が織りなす、重層的な人間ドラマです。家族の絆、女性の強さ、そして運命の皮肉を、アルモドバル監督独特の鮮やかな映像と演出で描き出しています。カンヌ国際映画祭やゴヤ賞での受賞歴からもわかるように、高い評価を得ている本作は、観る者の心に深く刻まれる作品と言えるでしょう。

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