ボーエン比

ボーエン比：地表の乾湿を示す指標

ボーエン比とは、地表から大気へと放出される熱エネルギーの形態を示す指標です。天文学者アイラ・ボーエンにちなんで名付けられました。具体的には、顕熱フラックスと潜熱フラックスの比で表され、地表の乾湿状態を評価する上で重要な役割を果たします。

顕熱フラックスとは、温度差によって生じる熱の移動を表し、空気の温度上昇に寄与します。一方、潜熱フラックスは、水の状態変化（蒸発や凝結）に伴う熱の移動を表し、水の蒸発に用いられます。ボーエン比は、これらのフラックスの比として以下の式で定義されます。

Bo = H / (Le E)

ここで、

Bo：ボーエン比
H：顕熱フラックス
Le：水の蒸発潜熱
E：蒸発量

ボーエン比の値は、地域の気候や地表面の状態によって大きく変動します。乾燥地域では、蒸発量が少なく潜熱フラックスが小さいため、ボーエン比は大きくなります。一方、湿潤地域や水域では、蒸発量が大きく潜熱フラックスが大きくなるため、ボーエン比は小さくなります。

ボーエン比の算出方法

ボーエン比は、異なる2つの高度における気温と比湿の観測データから算出できます。大気が中立状態にあると仮定すると、以下の式を用いてボーエン比を算出できます。

Bo = (Cp/Le) (T1 - T2) / (q1 - q2)

ここで、

Cp：定圧比熱
T1、T2：異なる高度における平均気温
q1、q2：異なる高度における平均比湿

熱収支ボーエン比法

熱収支ボーエン比法（またはボーエン比法）は、ボーエン比を用いて顕熱フラックスと潜熱フラックスを推定する方法です。この方法は、地表における熱収支の観測にも用いられ、蒸発散量を推定する主要な方法の1つとして広く利用されています。

熱収支の基本式は、次のように表されます。

Rn = Le E + H + G

ここで、

Rn：正味の放射量
G：地中熱流量

この式とボーエン比の式を組み合わせることで、顕熱フラックスと潜熱フラックスを算出できます。

H = (Rn - G) Bo / (1 + Bo)
Le E = (Rn - G) / (1 + Bo)

これらの式を用いることで、異なる高度における気温、比湿、正味の放射量、地中熱流量の観測データから、顕熱フラックスと潜熱フラックス、ひいては蒸発散量を推定できます。

参考文献

柏木良明 著「顕熱と潜熱」、高橋日出男・小泉武栄（編） 編『自然地理学概論』朝倉書店〈地理学基礎シリーズ〉、2008年
杉田倫明 著「エネルギーと水循環」、杉田倫明・田中正（編著） 編『水文科学』共立出版、2009年
浅沼順 著「蒸発散」、杉田倫明・田中正（編著） 編『水文科学』古今書院、2009年
田中博『地球大気の科学』共立出版〈現代地球科学シリーズ〉、2017年

もう一度検索