ポリウス

ポリウス (Полюс / Polyus)

「ポリウス」は、ロシア語で「地理極」を意味する言葉であり、ソビエト連邦が開発した宇宙兵器の試作機に与えられた名称です。Polus、Skif-DM、あるいはGRAUインデックス17F19DMといった別名でも知られています。冷戦時代末期、アメリカ合衆国が進めていた戦略防衛構想（SDI）、通称「スターウォーズ計画」に対抗するため、SDIによって配備される敵対国の衛星を宇宙空間で無力化することを主目的として開発されました。

設計と能力

ポリウスは、その任務遂行のために、高出力の炭酸ガスレーザー兵器を主要な武装として搭載していました。このレーザーを用いて、目標となる衛星を破壊、あるいは機能不全に陥れることが想定されていました。目標を正確に捉えるための照準システムとしては、光学センサー、レーダー、そして最終的な微調整を行うための低出力レーザーを組み合わせて使用する設計でした。

機体の構造は、ソ連の有人宇宙船計画で開発されたTKS宇宙船の貨物ブロック設計を一部流用しており、大型で複雑な内部構造を持っていました。機体には、軌道上での姿勢制御や、レーザーの発射試験を行うための高度な火器管制システムが搭載され、宇宙空間における兵器としての実証試験を行う能力を備えていました。

具体的な技術仕様は以下の通りです。

全長: 37.00 メートル (約121.4フィート)
最大径: 4.10 メートル (約13.5フィート)
重量: 80,000 キログラム (約180,000ポンド)
打ち上げ機: エネルギアロケット
投入予定軌道: 高度 280 キロメートル (約170マイル)、軌道傾斜角 64度
武装: 1メガワット (MW) 出力の炭酸ガスレーザー
* 照準装置: 光学、レーダー、低出力レーザー

打ち上げと失敗

ポリウスの打ち上げは、1987年 5月15日にカザフ・ソビエト社会主義共和国（当時）のバイコヌール宇宙基地、250番射点から行われました。この打ち上げには、ソ連が開発した史上最大級の打ち上げロケットであるエネルギアが使用されました。特筆すべきは、この飛行がエネルギアロケットにとって記念すべき最初の実質的な打ち上げであったということです。エネルギアは期待通りの性能を発揮し、ポリウスを正常に軌道投入高度まで運びました。

しかし、エネルギアからの分離後、ポリウスは予定された軌道に乗ることができませんでした。本来の計画では、分離後に機体をヨー軸周りに180度、ロール軸周りに90度回転させ、その後、軌道投入用のエンジンに点火する設計でした。ところが、実際に発生した事象は異なりました。機体は設計上の180度回転ではなく、誤って360度回転してしまい、その後のエンジン噴射は機体を加速させるのではなく、減速させる結果となりました。この制御異常により、ポリウスは軌道に乗ることなく、最終的に南太平洋上空で大気圏に再突入し、その生涯を終えました。これにより、ポリウスが実際に宇宙空間で兵器として運用されることはありませんでした。

失敗原因に関する諸説

ポリウスが軌道投入に失敗した原因については、主に二つの説が存在します。

一つは技術的な問題に起因するという説です。開発期間が非常に短かったために、特に機体の姿勢制御を司る慣性誘導装置の地上試験が不十分であった可能性が指摘されています。複雑な分離後の姿勢変更シーケンスにおいて、ソフトウェアまたはハードウェアに何らかの不具合があったことが、予期せぬ360度回転を引き起こし、結果として軌道投入失敗につながったという見方です。エネルギアロケット自体の性能は問題なかったことから、ポリウス側に原因があったことは確実視されています。

もう一つは、政治的な判断による意図的な中止であったとする説です。ポリウスの打ち上げが行われた1987年は、ソ連がペレストロイカを推進し、アメリカとの間で緊張緩和の動きが始まっていた時期でした。当時のソ連共産党書記長であったミハイル・ゴルバチョフは、軍拡競争、特に宇宙空間における兵器競争の激化を懸念していました。試験目的とはいえ、このような大型の宇宙兵器を軌道上に配備することが、国際的な波紋を呼び、緊張緩和の流れに逆行すると判断し、打ち上げ後に意図的に軌道に乗せないよう指示したという説です。打ち上げ失敗の状況があまりに不自然であることから、この政治的判断説も根強く存在します。

遺産

ポリウス計画自体は実戦配備に至らないまま終了しましたが、この計画で得られた技術的な知見や開発されたコンポーネントの一部は、その後のソ連、そしてロシアの宇宙開発に引き継がれました。特に、国際宇宙ステーション（ISS）の最初のモジュールとして打ち上げられたロシア製の基本機能モジュール「ザーリャ」には、ポリウス計画で開発された船体構造やシステムの一部が再利用されていると言われています。ポリウスは、ソ連の挑戦的な宇宙兵器開発の一端を示す存在であり、その失敗の背景には複雑な技術的課題と国際政治が絡み合っていたことがうかがえます。

ポリウスは「キラー衛星」といった宇宙兵器の系譜に位置づけられ、ソ連が開発した宇宙ステーション「アルマース」や、現代ロシアのレーザー兵器「ペレスヴェート」など、関連する技術や計画の文脈で語られることがあります。

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