ポリオウイルス

ポリオウイルス (Poliovirus)

ポリオウイルスとは、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属するウイルスで、主に人間を宿主とし、急性灰白髄炎（ポリオ）の病原体となるものです。このウイルスは長さ約7500塩基対からなる1本鎖RNA（ssRNA）と、それを包み込むカプシドで構成されています。ウイルス粒子は直径約30nmの正20面体構造をしており、重要なウイルスの中では最も単純な構成を持つとされています。

ポリオウイルスは1909年にカール・ラントシュタイナーとErwin Popperによって初めて分離されて以来、1981年にはポリオウイルスのゲノムの解明が進み、特にMITの研究グループやニューヨーク州立大学のグループが重要な成果を挙げました。ポリオウイルスはRNAウイルスの生態を理解するための重要なモデルとしても活用されています。

増殖メカニズム

ポリオウイルスは宿主の細胞膜上に存在するCD155（ポリオウイルスレセプター）に結合することによって細胞内に侵入します。この結合によってウイルス粒子は変形し、細胞内にRNAを注入します。最近の研究は、ポリオウイルスが細胞内にエンドサイトーシスによって取り込まれることを示唆しています。ウイルスが細胞内に入ると、ポリオウイルスのRNAは宿主細胞において直接mRNAとして機能し、リボソームによって直ちに翻訳されます。

ポリオウイルスは、宿主細胞の翻訳機構を占拠し、ウイルス特異的タンパク質を優先的に生成します。特に、ウイルスRNAの5'末端には配列内リボソーム進入部位（IRES）が存在し、これが翻訳の開始に重要な役割を果たします。

生成されたポリペプチドはプロテアーゼによって切断され、最終的にウイルスの構成成分である約10種類のウイルスタンパク質に分解されます。これにより、ウイルスは新しいウイルス粒子を形成し、宿主細胞から放出されることが可能になります。

起源と血清型

ポリオウイルスは他のエンテロウイルス群と共通の祖先を持つと考えられており、種分化はCD155への受容体の変化に関連していると言われています。ポリオウイルスには1型、2型、3型の3つの血清型が存在し、それぞれの型によってウイルスの抗原性や受容体の特異性が変わります。野生型の1型は最も一般的に見られ、特にパキスタンやアフガニスタンなどに局在しています。

病原性と免疫回避

ポリオウイルスの感染は主に糞口感染を介して行われ、95%の患者は無症状であるものの、約5%の患者においてはウイルスが筋肉や中枢神経系へと広がり、時には麻痺を引き起こすことがあります。麻痺はウイルスが中枢神経系に侵入し、運動ニューロンを攻撃することで発生します。ポリオウイルスは免疫逃避のメカニズムを持ち、酸性環境下でも生存しつつ、増殖速度が速いため、免疫応答が準備される前に感染を広げることができます。

研究と技術

ポリオウイルスの宿主は主に人類ですが、サルも実験的に感染します。近年の研究では、ポリオウイルスの研究においてトランスジェニックマウスが用いられ、ウイルスの増殖や病原性についての新たな知見が得られています。また、ポリオウイルスの感染性のクローン作製は、さまざまなウイルス研究の発展に寄与してきました。

ポリオウイルスの研究は、感染メカニズムや免疫反応を理解するための重要な鍵を提供し、今後のワクチン開発や治療法の研究にも大きな影響を与えることが期待されています。

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