ポリスティル

イタリアのミニカーメーカー、ポリスティル(Polistil) の歴史

ポリスティルは、イタリア・ミラノに拠点を置き、ブレシア近郊のキアーリに生産拠点を構えていた玩具メーカーです。設立当初はポリトイ(Politoys)という名称でした。同社は、ダイキャストメタルやプラスチック製のミニカーをあらゆるサイズで生産することで知られており、戦車や人形、ロボット、テレビとのタイアップ商品なども製造していました。1993年に廃業しましたが、現在は中国の美昌集團傘下のブランドとして、かつてのライバルであるブラーゴと共に活動を再開しています。イタリア国内では、マーキュリーやメーベトイズといった企業が主要な競合相手でした。

ポリスティルの歴史：ポリトイからポリスティルへ

ポリトイ(Politoys)としての創業は1960年頃とされています。当初は1/41スケールのプラスチック製ミニカー約100種類を生産開始。モデルには当時の最新車種に加え、アルファ・レーシングカーなどのクラシックカーも含まれていました。後に素材をより耐久性の高いファイバーグラスに変更。1960年代半ばには、市場の流れを受けてダイキャスト製ミニカーの生産へと移行します。1970年頃には社名をポリスティル(Polistil)に変更。これは、イギリスの同様の名称の企業との混同を避けるためとされています。初期の製品には、「APS」「Polistil」「Politoys」「Policar」といった複数の名称が同時に表示されていたケースもあったようです。
ミラノに研究・デザインセンターを置き、大型玩具の開発・生産も行っていました。ブレシアの製造センターでは、ダイキャスト製ミニカーの生産に特化していました。同社の生産モデルは、市場の動向に迅速に対応するため、2～3年ごとにラインナップが刷新される傾向にあったとされています。また、生産モデルにはアルファベットと数字を組み合わせた独自の番号が付けられていました。

代表的なシリーズ：Mシリーズ

ポリスティルのモデルは、CE、RJ、S、MSといった文字で始まる番号が付けられていましたが、アルファベットの最初の文字から始まるわけではありませんでした。1965年に発売された1/43スケールのダイキャスト製ミニカー「Mシリーズ」は、同社の代表作となりました。このシリーズは、正確で精密な再現性と、ドアやボンネットなどの可動部を備えた点が特徴です。プラスチック製の座席は折り畳み式で、一部モデルではベロア調の素材が使用されていました。
当時、コーギーが可動部を備えた最初のモデルとしてクライスラー・ギアを発売したと主張していましたが、ポリスティルのMシリーズは、全てのモデルが可動部を備えた最初のダイキャストカーシリーズでした。これは、ギミックを重視した他社とは異なるアプローチでした。広告では、ロールスロイス・シルヴァークラウドを例に、組み立てと分解を繰り返して遊べる点を強調していました。Mシリーズはイタリア車を中心に展開され、アルファロメオのモデルの割合が高かったことも特徴的でした。

競争と市場環境

Mシリーズは発売当初から、ディンキー、コーギー、ソリド、メーベトイズ、マーキュリーなど、多くの競合他社が存在する厳しい市場環境に直面しました。各メーカーは独自の市場戦略と製品アプローチを持っていました。ポリスティルはアメリカ市場では成功せず、また、主要競合他社ほど多くのモデルを生産しませんでした。イタリア市場では、マーキュリーが長年に渡りトップシェアを維持していましたが、メーベトイズやエディルトーイも市場に参入しました。ホットウィールの登場は、外国ブランドのアメリカ市場におけるシェアを縮小させました。
ポリスティルはヘッドライトにジュエルを使用するなど、他社と同様の特徴も持っていました。しかし、細部の精密な表現や、独自のデザインのワイヤーホイールなど、他社と差別化を図る工夫が見られました。1960年代後半にはスポーツカーや高級車の生産に力を入れるようになり、大衆車の生産は減少していきました。

その他のシリーズ

1/43スケールのシリーズとしては、Mシリーズ以外にも、500シリーズ、Eシリーズ、ELシリーズ、HEシリーズなどがありました。これらのシリーズでは、Mシリーズと同様の精密なモデルも存在しましたが、プラスチック製の安価な車輪を採用したモデルもありました。1/66スケールのペニーシリーズは、マッチボックスやマジョレットとの競合を狙って発売されましたが、成功は収めませんでした。1970年代後半には、メキシコでマクレガーブランドとして販売される製品もありました。

大スケールモデルへの進出

1970年代初頭には、スロットカーや大スケールモデルの生産を開始しました。1/24スケールのSシリーズは、新興メーカーのマートイ（後のブラーゴ）と直接競合しました。ポリスティルは、大スケールモデル市場への参入をいち早く行った企業の1つであり、その後の大スケールモデル市場のトレンドを形成する役割を果たしました。1/16スケールのTGシリーズでは、ランボルギーニ・カウンタックやフェラーリなどの高級スポーツカーをモデル化しました。また、1/15スケールのオートバイモデルも生産されました。トラックや戦車、テレビや映画のキャラクターをモデル化した商品なども展開していました。

F1への関与

ポリスティルは、1972年にフランク・ウィリアムズ・レーシングチームのスポンサーとなり、フォーミュラ1の世界に参入しました。同社の資金援助によって開発された「ポリトイ・FX3」は、イギリスグランプリで1戦のみ出場しました。
ポリスティルは、様々なスケールのレーシングカーモデルを販売することで知られていました。Fシリーズ、FKシリーズ、CEシリーズ、RJシリーズ、TGシリーズ、Lシリーズなどが存在し、ティレルP34など、魅力的なモデルも存在しました。1970年代後半にはスロットカーの生産も開始しました。

ポリスティルの終焉と復活

1980年代後半までに、ポリスティルは500種類以上のモデルを生産していました。1980年代後半にはトンカと提携し、アメリカ市場に大スケールモデルを販売しました。しかし、ブラーゴやマイストといった競合他社との競争激化や、市場の動向の変化により、1993年に廃業しました。
2014年、ポリスティルのブランド名は美昌集團によって復活しました。現在は、スロットカーやラジコンカー、ダイキャスト製の建設機械モデルなどを生産し、中国で販売されています。かつてのイタリアンブランドとして、ブラーゴと共に、その名を再び世界に広げようとしています。

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