ポリソーム

概要

ポリソームは、メッセンジャーRNA（mRNA）分子に複数のリボソームが数珠状に結合して形成される複合体です。ポリリボソームとも呼ばれ、細胞内でのタンパク質合成（翻訳）を担う重要な構造体です。1963年の発見当初は「エルゴソーム」と呼ばれ、後にジョナサン・ワーナー、ポール・M・クノップ、アレクサンダー・リッチらによってその性質が詳しく調べられました。

形成と機能

ポリソームは、タンパク質合成が進む過程、特に翻訳伸長段階で形成されます。リボソームがmRNAのコード領域に沿って移動しながら、次々とタンパク質を合成していきます。このとき、一つのmRNA分子上に複数のリボソームが同時に結合し機能することで、ポリソームが形成されます。これにより、細胞内に存在する限られた量のmRNAから、効率的に多くのタンパク質を生産することが可能になります。

構造

ポリソームの構造を明らかにするためには、初期には染色やシャドウイング、細胞超薄切片などの電子顕微鏡技術が用いられてきました。近年では、クライオ電子顕微鏡技術の発達により、より解像度の高い画像が得られるようになり、構造の詳細な解析が進んでいます。ポリソームの構造は多様であり、環状、ジグザグ型、らせん型などが観察されます。構造の多様性は、mRNAの翻訳の進み方や調節の違いを反映していると考えられています。翻訳が数回行われた後には環状やジグザグ型のポリソームが多く見られ、さらに長期間翻訳が行われると、密にパッキングしてらせん型のポリソームが形成されることが分かっています。

生物種による違い

原核生物

細菌のポリソームでは、リボソームが二列に並ぶ特徴的な構造を形成することが知られています。このような二列配置は、一般的に正弦波型（ジグザグ型）またはらせん型のような形状をとります。正弦波型構造では、リボソームの小サブユニット間で「top-to-top」型と「top-to-bottom」型の二種類の接触様式が見られますが、らせん型構造では「top-to-top」型の接触のみが観察されます。ポリソームは古細菌にも存在しますが、その構造についてはまだ多くの謎が残されています。

真核生物

真核生物の細胞内におけるポリソームは、基本的に線形の構造をとることが研究で示されています。ただし、密に詰まったらせん型やジグザグ型の構造も観察され、これらは原核生物と同様にリボソーム間の「top-to-top」接触を含んでいます。真核生物のらせん型ポリソームは原核生物のものと類似しており、密にパッキングした左巻きヘリックスで、1ターン当たり4つのリボソームが存在します。このような密な構造は、翻訳の進行を調節する役割を果たしている可能性が指摘されています。一方、試験管内での原子間力顕微鏡を用いた研究では、ポリアデニル化mRNAの5'末端に結合する開始因子eIF4Eと3'末端のポリ(A)テールに結合するPABPが存在すると、環状のポリソームが形成されることが示唆されています。しかし、このタンパク質複合体だけがmRNAを環状にするわけではなく、キャップやポリ(A)テールを持たないmRNAを用いた翻訳系でも、環状のポリソームが形成されることが確認されています。

膜結合型ポリソーム

細胞膜や小胞体膜といった二次元の表面に存在する膜結合型ポリソームは、膜上という制約により、リボソームがmRNAに沿って円形に配置される傾向があります。これにより、各リボソームのmRNAの入口と出口がスムーズに並びます。隣接するリボソームはわずかに回転した位置にあり、全体として渦巻き状のような形をとることがあります。

研究への応用：ポリソームプロファイリング

ポリソームプロファイリングとは、特定のmRNAが細胞内でどの程度翻訳されているかを測定するための技術です。この方法では、まずシクロヘキシミドなどの薬剤を用いて翻訳を一時停止させ、細胞抽出液を調製します。次に、スクロース濃度勾配を用いた遠心分離を行い、mRNAと結合したリボソームやポリソームを分離します。リボソームの結合数が多い（つまりポリソームが大きい）ほど速く沈降するため、勾配中のmRNAの存在位置から、そのmRNAがどの程度翻訳されているか（リボソーム密度など）を推定できます。

ポリソームプロファイリングは、培養細胞や組織における特定のmRNAの翻訳状態を追跡したり、異なる条件下や細胞種間での翻訳状態を比較したりするのに適した手法です。一例として、哺乳類細胞における水疱性口炎ウイルス（VSV）の影響を調査する研究で活用されました。この方法で得られたデータから、VSVに感染した細胞では、ウイルスmRNAが宿主のmRNAよりも優先的にポリソームを形成し、その結果、宿主mRNAの翻訳が低下しウイルスmRNAの翻訳が増加するという状況が明らかになりました。

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