ポルシェ・912

ポルシェ912：911の影に隠れた名車

1965年4月、ポルシェは新たなスポーツカー、912を発表しました。この車は、前年にデビューしたばかりの911とほぼ同じ車体を持ちながら、より手頃な価格を実現したモデルとして注目を集めました。911は、それまでの356シリーズの後継として開発されましたが、革新的なデザインと技術の採用により生産コストが大幅に増加。その結果、価格は356の後継モデルである911よりも約40%高価になってしまいました。

この価格の高騰を受け、ポルシェは911よりも低価格で、かつ356シリーズの顧客層も取り込むことができる新たなモデルの開発を急務としました。そこで誕生したのが、911のボディに356シリーズ最終モデルと同型の水平対向4気筒エンジンを搭載した912です。

912のメカニズムと特徴

912の心臓部には、356SCから受け継いだ1,582ccの空冷水平対向4気筒OHVエンジンが搭載されました。911の6気筒エンジンに比べて排気量は小さいものの、軽量なエンジンのおかげで、重量配分が911よりも優れており、優れたハンドリングを実現していました。最高出力は90馬力と、911と比較すると控えめでしたが、その分、扱いやすいエンジン特性も魅力でした。トランスミッションは、初期モデルでは4速が標準でしたが、5速がオプションで設定されていました。

エクステリアは911とほぼ同じでしたが、インテリアはコスト削減のため簡素化されていました。ステアリングホイールはプラスチック製となり、ダッシュボードは鉄板むき出しのデザイン、メーターも5連から3連に減らされるなど、911との違いが見て取れます。これらのコスト削減策により、912の価格は911よりも大幅に低く抑えられていました。

後部座席は2+2シーターながら、緊急時のみに使用可能な小さなスペースに留まり、大人二人分のスペースは確保されていませんでした。

生産期間と販売台数

912は、初期型911のOシリーズの時代から、Bシリーズの時代まで生産され続けました。生産期間中は、911と同様にマイナーチェンジが行われ、1967年にはオープンボディのタルガモデルも追加。メーターは5連化され、5速トランスミッションが標準となりました。

最終的に1969年7月に生産が終了するまでに、約3万台の912が製造されました。日本には正規輸入として約100台のみが導入された希少なモデルです。

日本における912：パトカーとしての活躍

日本では、当時のポルシェ輸入代理店であった三和自動車が、4台の912を警察に寄贈しました。これらの車両は、1967年から1968年にかけて、主に新東名高速道路など高速道路の交通取締りに使用されました。特に、神奈川県警に配備された1台は、178km/hで走行する暴走車両を検挙した記録も残っています。

この神奈川県警の車両は、その後、警察学校で展示されたのち、解体寸前に自動車愛好家によって救出され、長年のレストアを経て、2020年頃に再び公道を走るようになりました。

912E：北米市場向けモデル

北米市場では、914の販売終了後、924の導入まで空白期間が生じました。その間隙を埋めるモデルとして、1975年に912Eが生産されました。911/2.7のボディに、フォルクスワーゲン製の1,971cc水平対向4気筒エンジンを搭載したこのモデルは、電子式燃料噴射システム（E）を採用した点が大きな特徴です。912Eは、北米市場で2,099台が販売され、912の歴史に新たな1ページを加えました。

まとめ

ポルシェ912は、911の影に隠れてしまうこともありますが、コストパフォーマンスに優れたモデルとして、多くのドライバーに愛された名車です。その希少性と、パトカーとしての活躍など、様々なエピソードを持つ912は、ポルシェの歴史において重要な位置を占めるモデルと言えるでしょう。また、912Eの存在は、ポルシェの柔軟な市場対応戦略の一端を示すものとなっています。

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