ポルシェ・997

ポルシェ911(997型)徹底解説：進化と課題

ポルシェ911シリーズの6代目となる997型は、2004年から2011年にかけて製造されました。996型をベースとしながらも、内外装デザインを一新し、走行性能、快適性、安全性の向上を図ったモデルとして知られています。本稿では、997型の詳細なスペック、改良点、問題点などを多角的に解説します。

デザインとボディ

996型で賛否両論だった涙型ヘッドライトを廃し、丸型ヘッドライトを復活させたのが大きな特徴です。空冷911を思わせるレトロなデザインと、現代的なスポーティさを融合させたスタイリングは、高い評価を得ました。さらに、前後バンパー、コンビネーションランプ、ドアミラーのデザイン変更など、細部にわたる改良が施されています。ドアミラーはダウンフォース発生にも貢献する2本アームデザインとなりました。

内装も大幅に刷新され、質感の向上とともに、ステアリングチルト機構が911初採用されました。可変ギヤレシオのパワステも装備され、操舵性も向上しています。シートは4種類の形状から選択可能で、ドライビングスタイルや好みに合わせてカスタマイズできました。一方、コスト削減のためスペアタイヤは廃止され、パンク修理キットが標準装備となりました。また、981ボクスター/ケイマンとの部品共通化も進められ、コストを抑えています。

シャシは996型をベースに、スポット溶接に加え樹脂系接着剤による接合技術を導入することで、曲げ剛性を40%向上させました。しかし、996型をベースとしたことによる限界も指摘されており、特に短距離走行での剛性低下が問題視されました。

空力性能の向上も図られ、Cd値は996型の0.3から0.28に向上（カレラSは0.29）しました。これは、フロントラジエターを通過した空気の流れを車体下面から前輪フェンダー内へと変更したり、ボディ下面を樹脂製パネルで覆うなどの工夫によるものです。ボンネットのアルミ化など、軽量化も積極的に推進され、カレラモデルでは996型と比べて25kgの軽量化を実現しました。

エンジンとトランスミッション

初期モデル（前期型）のカレラは、996型カレラエンジンをベースに、クランクのねじれ吸収ダンパーをアルミ製に変更するなどマイナーチェンジを行い、325馬力を発揮しました。カレラSは、排気量を3.8Lに拡大し、2段階切り替え式レゾナンスチャンバーを採用することで、355馬力を達成しました。

2008年のマイナーチェンジ（後期型）では、NAモデルに新設計の直噴エンジンを搭載。高圧縮比12.5を実現し、カレラは345馬力、カレラSは385馬力に向上しました。さらに、7速PDK（デュアルクラッチトランスミッション）がオプションとして追加され、従来のティプトロニックSは廃止されました。PDKはMTモデルより30kg重いものの、ティプトロニックSと比較して10kg軽量化され、変速スピードも大幅に向上しました。直噴エンジンは、層状燃焼ではなく、マルチ噴射による高圧インジェクター制御を採用することで高出力と排ガス規制クリアを実現しました。

トランスミッションは6速MTと5速ティプトロニックS（後期型は7速PDK）が用意されました。6速MTはアイシン製で、シンクロリングの素材変更、ショートシフト化などの改良が加えられています。

ブレーキシステム

ブレーキシステムも強化され、カレラSには996ターボのブレーキシステム（前後330mmディスク）が採用されました。カレラは前318mm、後299mmのディスクブレーキを装備しました。さらに、PCCB（セラミックコンポジットカーボンブレーキ）をオプションで選択可能で、ローター径380mm、バネ下重量17kgの軽量化を実現しました。

グレードバリエーション

997型は、カレラ、カレラSといった標準モデルに加え、4WDモデル、タルガ、スピードスター、GT3、GT3RSRなど、多様なグレードが用意されました。それぞれのグレードは、エンジン、シャシ、装備などが異なり、幅広いユーザーのニーズに対応していました。特に、限定生産のスピードスターは、その希少性から高い人気を誇りました。また、レース専用モデルであるGT3カップとGT3RSRも、高い性能と戦闘力を持つモデルとして知られています。

インターミディエイトシャフト問題

前期型997の水冷エンジンの一部では、インターミディエイトシャフトの破損問題が報告されています。これは、エンジンの左右バンクでタイミングチェーンが前後に分かれている構造上の問題が原因で発生したとされています。この問題は、エンジンブローに繋がる重大な欠陥であり、ポルシェジャパンによるサービスキャンペーン（リコールとは異なる）が実施されました。後期型は直噴エンジン換装によりこの問題とは無縁です。

まとめ

997型は、デザイン、性能、装備において、996型から大きな進化を遂げたモデルです。しかし、インターミディエイトシャフト問題のような課題も抱えていました。997型は、911の歴史における重要なモデルであり、その成功と課題は、後のモデル開発に大きな影響を与えたと言えるでしょう。様々な改良が加えられた一方で、根本的な部分では996型からの改良が不十分だった部分もあったことが伺えます。

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