ポルトガル王女イザベルの肖像

概要

『ポルトガル王女イザベルの肖像』は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1548年に制作した油彩画です。この肖像画は、神聖ローマ皇帝カール5世が、数年前に亡くなった皇后イサベル・デ・ポルトゥガル・イ・アラゴンを偲んで発注したものです。ティツィアーノはイザベルの肖像画を3点制作しましたが、現存するのはこの作品のみです。現在、この肖像画はスペインのマドリードにあるプラド美術館に所蔵されています。

イザベル・デ・ポルトゥガル・イ・アラゴンについて

イザベルは1503年にポルトガル王マヌエル1世とマリア・デ・アラゴン・イ・カスティーリャの間に生まれました。1526年にカール5世と結婚しましたが、これは政略結婚でした。しかし、二人の仲は良好で、カール5世は広大な帝国を統治するために各地を巡る一方で、結婚後7年間はスペインに滞在しました。その後、カール5世はスペインを離れましたが、1539年にイザベルが亡くなるまで、二人の間には3人の息子と2人の娘が生まれました。イザベルは、夫が不在の間は摂政としてスペインを統治し、その政治的手腕を発揮しました。しかし、彼女は1539年に7度目の妊娠中に熱病で子供を死産し、その2週間後に35歳で亡くなりました。カール5世は、イザベルの死に立ち会うことができませんでしたが、彼女の死後、再婚することはありませんでした。

制作の経緯

イザベルが亡くなった時、カール5世は彼女の肖像画がないことに気づき、かつて彼女がマルグリット・ドートリッシュに送った肖像画を取り戻そうとしました。しかし、その肖像画はイザベルに似ていなかったため、カール5世はティツィアーノに肖像画の制作を依頼することにしました。1543年、カール5世はティツィアーノにイザベルの小さな肖像画を送りました。これはウィリアム・スクロツが制作したもので、その肖像画を基に、ティツィアーノは1545年に最初の肖像画を完成させました。しかし、カール5世はその肖像画の鼻に不満を感じ、1547年に修正を依頼しました。この最初のバージョンは火災で焼失しましたが、複製や版画でその外観を知ることができます。そして、その最初のバージョンを基に、ティツィアーノはアウグスブルクで第二のバージョンである本作品を制作しました。さらに、ティツィアーノはカール5世とイザベルの二重肖像画も制作しましたが、これも火災で焼失しました。

作品の特徴

イザベルは、風景が見える窓のそばに座っており、左手に時祷書を持っています。しかし、彼女の視線は鑑賞者の方ではなく、遠くを見つめています。彼女は真珠をふんだんにあしらった赤いドレスを身にまとい、右手の薬指には指輪をしています。また、ブローチやネックレスで胸元を飾り、背後のカーテンには神聖ローマ帝国の紋章が刺繍されています。窓の外には、夕暮れの風景が広がっています。イザベルの肖像画は、威厳があり、聖職者のような雰囲気を持っています。また、カール5世の記憶にあるイザベルの姿を目に見える形で再現するために、彼女の顔は理想化され、青白く、生命力に欠けているように見えます。この肖像画は、ラファエロ・サンツィオの作品を参考にしたとも言われています。

来歴

カール5世は、1556年にユステ修道院に隠棲する際、この肖像画を携えて行きました。彼は、この肖像画を非常に愛していたと考えられています。この肖像画はその後、カール5世の娘マリア・デ・アブスブルゴとも関わりを持ち、王宮を経て、1821年にプラド美術館に収蔵されました。

ギャラリー

ユステ修道院に携えられたティツィアーノの作品には、他に『ラ・グロリア』、『エッケ・ホモ』、2点の聖母画があります。

まとめ

『ポルトガル王女イザベルの肖像』は、ティツィアーノの卓越した技術と、カール5世の深い愛情が込められた傑作です。この肖像画は、イザベルの美しさと威厳を後世に伝えているだけでなく、カール5世の心の中に生き続けるイザベルの姿を映し出しています。

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