ティツィアーノ・ヴェチェッリオ

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ：イタリア・ルネサンスの巨匠

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ（Tiziano Vecellio、1490年頃-1576年8月27日）は、イタリア盛期ルネサンスにおけるヴェネツィア派を代表する巨匠画家の一人です。ベッルーノ近郊のピエーヴェ・ディ・カドーレに生まれ、「ダ・カドーレ」とも呼ばれました。日本では「チシアン」の表記も用いられます。同時代の人々からはダンテの『神曲』に因んで「星々を従える太陽」と称賛されました。

画業：多様な画風と卓越した色彩感覚

ティツィアーノは、肖像画、風景画、神話画、宗教画など、あらゆるジャンルで卓越した才能を発揮しました。初期作品は明るく奔放な筆致と繊細な色彩が特徴で、西洋絵画の歴史において革新的なものとなりました。晩年の作品は初期と比べて色調がやや抑え気味のものもありますが、生涯を通して独自の色彩感覚は変わることなく、彼の作品は、イタリアルネサンスのみならず、後の西洋絵画にも多大な影響を与えました。

生涯：才能開花から晩年まで

ティツィアーノの正確な生年は不明ですが、現在では1490年前後と考えられています。10歳頃からヴェネツィアの叔父の元に送られ、画家としての修業を始めました。ジョヴァンニ・ベリーニのもとで学び、ジョルジョーネとの共同作業を通じて、ヴェネツィア絵画の革新に貢献しました。

初期（～1510年頃）

ジョルジョーネの助手として活躍しながら、早くから高い評価を得ていました。フォンダコ・デイ・テデスキ（ドイツ商人館）のフレスコ画制作にも参加しましたが、ほとんどが失われており、現存するものは少ないです。ジョルジョーネ没後も、彼の影響を受けつつ独自の作風を確立していきました。パドヴァのカルメル会修道院に残るフレスコ画など、初期の代表作が数多く残されています。

中期（1510年～1530年頃）

この時代は、ティツィアーノが独自の成熟期を迎えました。ジョルジョーネやベリーニの死後、ヴェネツィア絵画界の第一人者としての地位を確立し、『聖母被昇天』を始めとする大規模で複雑な構成の作品を制作しました。『聖会話とペーザロ家の寄進者たち』は、ルネサンス古典様式の頂点を極めた傑作として高く評価されています。このほか、神話画『ヴィーナスへの奉献』『アンドロス島のバッカス祭』『バッカスとアリアドネ』など、幾度となく模倣された名作を数多く生み出しました。

また、この頃、ティツィアーノは作家ピエトロ・アレティーノと親交を深め、彼の肖像画も描いています。私生活では、妻セシリアとの間に子供をもうけました。

後期（1530年～1576年）

後期に入ると、ティツィアーノはより劇的で物語性の強い作風を確立しました。ヴェネツィア共和国政府からの依頼でドゥカーレ宮殿の装飾画を制作したものの、多くは後年の火災で焼失してしまいました。『カドーレの戦い』は、その一部を垣間見ることができる重要な作品です。

この時代には、ローマを訪れて横たわるヴィーナスをモチーフとした連作を制作しました。『ウルビーノのヴィーナス』『愛のヴィーナス』などは、古代彫刻の影響を受けたものです。また、数多くの肖像画を描き、その卓越した人物描写は、レンブラントやベラスケスと比較されることもあります。

皇帝カール5世やスペイン王フェリペ2世など、多くの権力者たちの肖像画も制作しました。晩年はフェリペ2世の庇護の下、宗教画や神話画を制作し続けました。オウィディウスの『変身物語』を題材とした「ポエジア」シリーズは、ティツィアーノの最高傑作と称賛されています。

ティツィアーノは1576年、ペストで亡くなりました。彼の希望通り、『聖母被昇天』のあるサンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂に埋葬されています。

ティツィアーノの影響

ティツィアーノは、その画業を通して、後世の画家たちに多大な影響を与えました。その色彩感覚、筆致、人物描写などは、多くの芸術家に模倣され、称賛されました。特に、バロック期の画家ルーベンスは、ティツィアーノの作品に大きな影響を受けていることが知られています。

脚注

本稿は、様々な文献を参考に記述しております。詳細は参考文献一覧をご確認ください。

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