ポルノグラフィー依存症

ポルノグラフィー依存症、あるいは問題のあるポルノグラフィー閲覧とは、個人的な悪影響（身体的、精神的、社会的、経済的な問題）が生じているにもかかわらず、ポルノグラフィーを閲覧したり、関連する性的行動を強迫的に繰り返してしまう状態を指します。

特にインターネットを通じたポルノグラフィーの利用が中心となる場合が多く、他の活動に比べて過度に時間を費やしてしまうことも含まれます。この状態にある人は、その過剰なポルノグラフィー閲覧の結果として、抑うつ気分になったり、社会的に孤立したり、仕事や学業における生産性が低下したり、経済的な困難に直面するなど、自身の生活に支障が出ていると報告することがあります。

サイバーセックス依存を行動嗜癖の一種と捉える考え方もあり、特定の刺激（ポルノグラフィー関連の指示など）に対する強い反応や、その行動が強化される（依存的になる）性質が指摘されています。

診断と精神医学上の位置づけ

現在、ポルノグラフィー依存症や問題のあるポルノグラフィー閲覧に対して、広く認められた統一的な診断基準は存在していません。

精神障害の診断と統計マニュアル（DSM）において、行動嗜癖のセクションが設けられていますが、DSM-5ではギャンブル依存症のみが正式な診断名として含まれています。他の行動嗜癖、例えばインターネットギャンブル障害などは、「さらなる研究が必要な状態」として挙げられています。専門家の中には、他の行動障害をDSMに含めるには、まだ十分な研究や証拠が不足していると指摘する声もあります。

ただし、インターネット依存症の一つのタイプとして、インターネットポルノグラフィー依存をDSMに含めるべきだとする研究レビューも2015年に発表されています。

DSM-5には、「Viewing online pornography」という言葉自体は記載されていますが、これはそれ自体が精神疾患として分類されているわけではありません。ポルノグラフィーは、DSM-5内の「性的倒錯」の類型の中で議論されることはありますが、個別の診断名としては扱われていません。つまり、DSM-5の観点からは、ポルノグラフィーの利用自体はメンタルヘルスの問題とは見なされていません。

一方で、「性行動過剰障害（Hypersexual disorder）」として提案されている診断基準には、ポルノグラフィー依存症がそのサブタイプとして含まれることがあります。この提案されている基準では、ストレス反応としての性的行動の反復、行動を減らそうとする試みの失敗、生活における苦痛や機能低下、これらに費やす時間の多さなどが評価されます。問題のあるインターネットポルノグラフィー閲覧の研究では、週に複数回（例えば3回以上）の閲覧が数週間にわたり続き、それが生活上の困難を引き起こしていることを基準とすることもあります。

2011年には、American Society of Addiction Medicineが、依存症の定義に薬物だけでなく、あらゆる種類の外部的な報酬に対する病的な追求を含むとしましたが、この定義がポルノグラフィー依存症に明確に言及しているわけではなく、「性的行動依存症」という表現が用いられています。

一部の研究者グループは、ポルノグラフィー依存を単なる強迫観念を超えた依存性疾患の一つとして位置づけるべきだと主張していますが、これらの見解は学術的な査読プロセスの中で厳しい検討にさらされています。DSM-5の性関連分野に携わった専門家の中には、ポルノグラフィー依存症が注目され疾患として認識されつつある現状に対し、学術的な実証がまだ不足しているとして慎重な見解を示す人もいます。

治療

ポルノグラフィー依存症や問題のある閲覧行動に対する確立された治療法に関する大規模な臨床試験はまだ限られていますが、インターネット依存症へのアプローチを応用する試みが行われています。

認知行動療法（CBT）は、問題のあるインターネット利用に有効であることが示されており、ポルノグラフィー依存症にも効果的である可能性が指摘されています。また、無作為化比較試験の結果から、「受容とコミットメント療法（ACT）」が問題のあるポルノグラフィー閲覧に対する有効な治療法となりうるという知見も得られています。

オンラインポルノグラフィーの利用を管理する方法として、コンテンツコントロールソフトウェアやインターネットモニタリングツールの使用を推奨する臨床医や支援団体もいます。これらのツールは、アクセスの容易さを制限することで問題行動や再発を防ぐ一助となる可能性が考えられています。

回復過程と関連コミュニティ

ポルノグラフィー依存からの回復過程には個人差がありますが、一般的に禁断症状が現れる時期（初期の数週間、不眠を伴うこともある）や、「フラットライン」と呼ばれる一時的な性欲の低下・喪失期間を経ることがあると報告されています。これらの過程を知らずに回復を諦めてしまう人もいるとされます。

「NoFap」は、ポルノグラフィーの利用やマスターベーションなどを避けたいと願う人々をサポートする目的で設立されたオンラインコミュニティとして知られています。

研究と継続的な議論

疫学的な調査の多くは、特定のグループを対象としたものが多いですが、一部の研究では、インターネットユーザーのごく一部がサイバーセックスに明確に依存している可能性や、より多くの割合の人が問題のある性的強迫の基準に該当する可能性が示されています。ヨーロッパやアメリカでのインターネット依存障害の有病率は1.5%から8.2%という研究結果もあり、インターネットポルノグラフィーユーザーは、強迫的な利用に陥りやすいインターネット利用者の層に含まれると考えられています。

興味深い研究として、宗教的な背景とポルノグラフィー依存に対する自己認識の関連性が指摘されています。2014年の研究では、信仰心が深い人ほど、実際の利用量にかかわらず、自分自身をポルノグラフィーに依存していると認識しやすい傾向が見られました。

ポルノグラフィー依存症に関する議論は、その診断上の位置づけやメカニズムについて、学術界および臨床現場で現在も続けられています。

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