ポークチョップヒルの戦い

ポークチョップヒルの戦いは、朝鮮戦争の最末期、1953年4月から7月にかけて、板門店での休戦交渉中に行われた二度にわたる激しい歩兵戦です。この戦いは、戦略的、戦術的な価値が低い丘を巡り、多くの犠牲者を出したことで、アメリカ国内でその是非が議論されることとなりました。

背景

ポークチョップヒルは、その形状が豚のロース肉のステーキ（ポークチョップ）に似ていたことから、この名がつけられました。高さ約300メートルのこの丘は、1951年10月に米軍によって攻略されましたが、その後、所有権が何度か変わり、1952年5月には米第180歩兵連隊とタイ陸軍第21歩兵連隊によって再度奪取されました。

1952年12月29日からは、国連軍の主要防衛線の一部となり、敵に露出したいくつかの丘の一つとなりました。この丘の前哨陣地は、土嚢で積み上げられた複数の掩蔽壕が塹壕で繋がっており、中隊や小隊単位で防御されていました。

対峙する中朝連合軍は、中国人民志願軍の第47軍第141師団と第23軍第67師団でした。これらの部隊は、夜戦、山岳戦、待ち伏せ攻撃などの経験豊富な兵士で編成されており、訓練も行き届いていました。これらの部隊は、元々は鄧華将軍率いる第13野戦軍の一部でした。

この戦区での両軍の兵力はほぼ同規模であり、米第7歩兵師団は11個の歩兵大隊と1個の機甲大隊、6個の砲兵大隊を擁していました。一方、中朝連合軍は12個の歩兵大隊、10個の砲兵大隊、1個の戦車大隊で構成されていました。

1952年の初めから、軍事作戦は休戦協定の交渉を有利に進めるための政治的な手段として利用されていました。ポークチョップヒルの戦いの数日前には、捕虜交換作戦が行われましたが、中朝軍側は戦闘を止める意思がないことを示しました。

最初の戦闘（4月16日〜4月18日）

前哨陣地の陥落

1953年3月23日、中国人民志願軍は、ポークチョップヒル近傍のオールドバルディ（266高地）の前哨陣地を奇襲攻撃し、コロンビア軍大隊を撃退しました。その後、コロンビア軍は反撃を試みましたが、米軍からの増援が得られず、丘を奪還することができませんでした。

4月16日の深夜、ポークチョップヒルに布陣していた米第31歩兵連隊E中隊に対し、中国軍が激しい砲撃を開始し、続いて突撃が行われ、丘の大部分が占拠されました。この夜、米第7歩兵師団の戦区全体で攻撃が行われました。

米第31歩兵連隊の反撃

予備部隊であった米第31連隊のK中隊とL中隊は反撃を命じられ、夜明けまでに丘の頂上部にある主塹壕に到達しましたが、死傷率が50%に達し、L中隊は前進が困難な状況となりました。増援部隊として、第17歩兵連隊のG中隊が投入されましたが、砲撃により塹壕に釘付けとなりました。

司令部との情報伝達の混乱により、損害の大きかったG中隊のみに撤退命令が出されましたが、他の2個中隊も生存者がわずかでした。その後、第17連隊の第1大隊と第2大隊が戦術指揮を任されると共に、新たな中隊が増援として送られました。

米第17歩兵連隊の反撃

第17歩兵連隊のF中隊は、激しい砲撃の中、丘を登り始め、頂上の塹壕に到達しましたが、多くの戦死者を出しました。続いて、第17連隊のE中隊が増援として送られましたが、中国軍と正面から向き合う形となりました。

第31連隊K中隊は、20時間に及ぶ激戦の末、多くの死傷者を出し、残りの兵士は他の部隊に戦況と陣地の状況を引き継ぐために丘に留まりました。

4月18日未明、中国軍が再び攻撃を開始しましたが、第17連隊E中隊の奇襲攻撃により、中国軍の攻撃は失敗に終わりました。その後、第17連隊の3個中隊が丘の掃討を行い、丘の確保を固めました。

この戦闘で国連軍の砲兵部隊は、77,000発の支援砲撃を行い、このうちポークチョップヒルには、4月18日だけで40,000発の砲撃を行いました。

戦術と損害

両軍とも、新月の暗闇を利用して丘への突撃を行い、事前砲撃で防御側を陣地に釘付けにしました。中国軍は素早い移動で奇襲効果を高め、米軍は草刈り射撃で火力を補い、巧みに支援砲撃を行いました。戦闘は、手榴弾や爆薬、火炎放射器が使われる激しいものでした。

国連軍にとって、陣地内に侵入してくる中国兵は悩みの種であり、白兵戦が頻発しました。負傷兵の搬送は困難で、装甲車が利用されましたが、1輛が破壊されました。

米軍は、戦死者104名、負傷者373名という損害を出しました。中国軍側の正確な死傷者数は不明です。

この戦闘は、1959年の映画『勝利なき戦い』の題材となりました。

2度目の戦闘（7月6日〜11日）

防御態勢の再構築

5月から6月にかけて、戦闘が小康状態になったため、米第7師団はポークチョップヒルの防御陣地の再構築を行いました。休戦協定締結に向けた交渉が進められており、全戦線で防御態勢が取られていました。

夜間奇襲攻撃

7月6日の夜、中国軍は再びポークチョップヒルを攻撃しました。当時、丘には第17歩兵連隊A中隊が布陣しており、直ちにB中隊が応援に駆けつけました。しかし、A中隊は白兵戦に巻き込まれ、3個目の中隊が応援に送られました。天候は悪く、雨が降り続き、両軍ともに補給や負傷者の後送に支障が生じました。

第7師団の反撃

2日目の夜、中国軍は新たな攻勢を行い、米第7師団は増援部隊を送り込みました。4個中隊が防御している丘には両軍の砲弾が降り注ぎました。7月8日の夜明け頃、増援部隊によって、丘の支配権を獲得しましたが、両軍は攻撃と反撃を繰り返しました。

7月9日と10日、激しい攻防戦が繰り広げられ、最終的に7月11日、米第1軍団はポークチョップヒルからの撤退を決定しました。

結果と損害

米軍は、戦死243名、負傷916名、捕虜9名の損害を受けました。戦死者として認定されたもののうち、163名の遺体は収容されませんでした。中国軍側の損害は、戦死1500名、負傷4000名と推定されています。中国の資料によると、第67師団の兵士6800名のうち、533名が戦死、1242名が負傷したとされています。

ポークチョップヒルの戦いの3週間後、国連軍と中朝連合軍は停戦協定に合意し、戦闘は終結しました。

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