ポール・ガシェ

ポール・ガシェの生涯

生い立ちと医学への道

ポール・ガシェは1828年、フランスのリールで裕福な家庭に生まれました。幼少期から向こう見ずな一面がありましたが、学業では優秀な成績を収めていました。10代の頃から芸術に強い関心を抱き、1848年にパリ大学医学部に登録します。小児科医としての経験を積み、ビセートル病院やサルペトリエール病院で勤務。コレラの大流行時にはボランティア医師団に参加するなど、社会貢献にも積極的でした。
1858年、モンペリエ大学で医学博士号を取得し、パリに戻り「女性と子供の神経症の特別治療」を掲げて開業します。この頃から、エッチング作家のシャルル・メリヨンや画家ギュスターヴ・クールベなど、当時の芸術家たちとの交流を深めていきました。

医師として、そして芸術愛好家として

1863年には、診療所を移転し、精神病の温浴療法やホメオパシー、電気療法など、当時の最新医療を取り入れました。1868年には結婚し、二人の子供を授かります。1870年の普仏戦争では、前線医師や法医として活動し、その後は診療よりも芸術家との交流に傾倒していきます。1872年には、パリ近郊のオーヴェル＝シュル＝オワーズに家を購入し、カミーユ・ピサロやポール・セザンヌ、アルマン・ギヨマンなど、多くの画家たちと親交を深めました。

ゴッホとの出会いと交流

ガシェが最も知られるようになったのは、フィンセント・ファン・ゴッホの主治医となったことでしょう。1890年、精神病院を退院したゴッホは、ガシェを頼ってオーヴェルを訪れます。ガシェは美術愛好家であったため、ゴッホの弟テオは、兄の療養を彼に託しました。ゴッホはガシェの家を頻繁に訪れ、肖像画や庭の風景を描きました。有名な「医師ガシェの肖像」は、この時期に制作された作品です。しかし、ゴッホは同年7月に自ら命を絶ち、ガシェはその死に立ち会うことになります。
ゴッホの死後、ガシェの治療が適切だったかという批判も一部にはありましたが、短い期間でガシェにできることは限られていたという擁護論もあります。いずれにせよ、ガシェとゴッホの出会いは、美術史における重要な出来事として記憶されています。

その他の画家たちとの交流

ガシェはゴッホ以外にも、ピサロ、ルノワール、マネ、セザンヌなど、多くの画家と親交があり、彼らの診察も担当しました。その交流を通じて、ヨーロッパでも最大級の印象派コレクションを築き上げました。また、ガシェ自身やその家族を描いた作品も多数存在します。
ガシェは、医師としてのキャリアを積みながらも、芸術を愛し、その発展に貢献しました。彼は単なる医師ではなく、芸術家たちの理解者であり、パトロンであり、そして友人でした。1909年、オーヴェルで亡くなったガシェは、パリのペール・ラシェーズ墓地に眠っています。

まとめ

ポール・ガシェは、医師としての専門知識と、芸術に対する深い愛情を併せ持った人物でした。特に、ゴッホとの交流は、美術史において重要な意味を持ちます。ガシェは、医師としてだけでなく、芸術家たちのパトロンとしても、その名を歴史に刻んでいます。

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