マイニンゲン宮廷楽団

ドイツ中部、テューリンゲン州の古都マイニンゲンを活動拠点とするマイニンゲン宮廷楽団は、300年以上の長きにわたりその歴史を紡いできた、ヨーロッパ有数の伝統を誇るオーケストラです。その源流は、1690年に当時のザクセン＝マイニンゲン公ベルンハルト1世によって創設された宮廷オーケストラに遡ります。設立当初から宮廷音楽文化の中心として機能し、数多くの音楽家たちがここで研鑽を積みました。

楽団の歴史において特筆すべきは、19世紀後半に訪れた輝かしい時代です。1880年、伝説的な指揮者ハンス・フォン・ビューローが音楽監督に就任したことで、楽団はその芸術水準を飛躍的に高め、一躍ヨーロッパ中の注目を集める存在となりました。ビューローは極めて厳格な練習と革新的なプログラムによって楽団を鍛え上げ、その名声は高まる一方でした。1885年にビューローが健康上の理由から退任した後も、若きリヒャルト・シュトラウス（1885-1886年）や、長きにわたり楽団を率いたフリッツ・シュタインバッハ（1886-1903年）といった優れた音楽家たちがその伝統を引き継ぎました。

この黄金期を語る上で欠かせない人物が、大作曲家ヨハネス・ブラームスです。ビューローやシュタインバッハと親しい関係にあったブラームスは、マイニンゲンを度々訪れ、この楽団を指揮しました。特に歴史的な出来事として知られるのが、彼の傑作である交響曲第4番の初演です。1885年10月25日、ブラームス自身のタクトにより、この楽団で世界初演されました。これは、マイニンゲン宮廷楽団が当時の最先端の音楽創造において重要な役割を果たしていたことを示す象徴的なエピソードと言えるでしょう。ブラームスはこの楽団の優れた演奏能力を高く評価し、彼自身の作品の試演や初演の場として信頼を寄せていました。

しかし、楽団の歩みは常に順風満帆だったわけではありません。1914年、パトロンであったザクセン＝マイニンゲン公ゲオルク2世の逝去と第一次世界大戦の勃発という二重の危機に直面し、楽団の存続すら危ぶまれました。一時的な解散も検討されましたが、戦後、ザクセン＝マイニンゲン公国が廃止されて成立した（旧）テューリンゲン州が楽団の所有を引き継ぐ形で存続が決定しました。これにより楽団は宮廷の庇護から州の支援へとその形態を変え、1921年には「州立管弦楽団（Landesorchester）」と名称を改めました。

第二次世界大戦後の東ドイツ時代に入ると、行政区画の変更に伴い再び名称が変わります。1952年にテューリンゲン州が廃止され、マイニンゲンが新たに設置されたズール県に属することになった際、楽団は「マイニンゲン劇場管弦楽団（Orchester des Meininger Theaters）」となりました。これは、主にマイニンゲン劇場でのオペラや演劇の伴奏を担うという役割も反映したものでした。

社会体制の変遷や行政区画の変更に伴い、その名称を変えながらも、マイニンゲンにおける音楽文化の中核を担い続けてきた楽団は、冷戦終結後のドイツ再統一を経て、大きな転換期を迎えます。そして2006年、その長い歴史と伝統を再認識し、創設当初からの名称である「マイニンゲン宮廷楽団」の名を再び冠することになりました。

歴代の音楽監督には、ゲオルク・カスパー・シュールマンやヨハン・ルートヴィヒ・バッハ（大バッハの遠戚）といったバロック時代の音楽家から、先述のハンス・フォン・ビューロー、リヒャルト・シュトラウス、フリッツ・シュタインバッハ、マックス・レーガーといった近現代の巨匠たち、そして現代に至るまで、多くの著名な指揮者たちが名を連ねています。彼らのリーダーシップのもと、楽団は常に高い芸術性を追求し、マイニンゲンはもとより、国内外の音楽シーンに貢献してきました。

ゲオルク・カスパー・シュールマン（1702年 - 1707年）
ヨハン・ルートヴィヒ・バッハ（1711年 - 1731年）
ヨハン・マテウス・ファイラー (1778年 - 1814年）
アドルフ・エミール・ビュヒナー（1865年 - 1880年）
ハンス・フォン・ビューロー（1880年 - 1885年）
リヒャルト・シュトラウス（1885年 - 1886年）
フリッツ・シュタインバッハ（1886年 - 1903年）
マックス・レーガー（1911年 - 1914年）
ハインツ・ボンガルツ（1926年 - 1930年）
ペーター・シュミッツ (1945年 - 1952年）
ウルリッヒ・ハヴェルカンプ（1952年 - 1956年）
ロルフ・ロイター（1956年 - 1961年）
オラフ・コッホ（1961年 - 1967年）
ヴォルフガング・ホッケ（1967年 - 1995年）
マリー＝ジェンヌ・デュフール（1995年 - 1999年）
キリル・ペトレンコ（1999年 - 2002年）
ファブリツィオ・ヴェントゥーラ（2002年 - 2004年）
アラン・ブリバエフ (2004年 - 2007年）
ハンス・ウルバネク (2007年 - 2010年）
フィリップ・バッハ（2010年 - 2022年）
* キリアン・ファレル（2023年 - ）

現代においても、マイニンゲン宮廷楽団は定期演奏会やマイニンゲン劇場での公演を通じて、地域の音楽文化振興に貢献し続けています。その輝かしい歴史と伝統は、今後も受け継がれていくことでしょう。

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