マイルズ M.52

マイルズ M.52：音速突破の夢

マイルズ M.52は、イギリスが音速の壁を打ち破るために設計した革新的な実験機です。この計画は1942年にスタートし、マイルズ・エアクラフトによって開発が進められました。当時の技術では非常に先進的で、水平飛行において時速1,000マイル（約1,600キロメートル）を超えることを目指していました。

設計と技術

M.52の設計には、当時の空力学に関する最先端の研究が活かされています。特に目を引くのは、リヒート（再加熱）機能を持つジェットエンジンの採用です。この技術により、エンジンの推力を向上させることが可能になり、高速飛行に対応しました。また、薄翼設計を採用することで、超音速域において抵抗を減少させ、効率的な飛行を促しました。

さらに、全可動尾翼であるフライングテールを取り入れることにより、操縦性も確保されました。この設計は、高速時の安定性を高め、必要な機動性を確保するための重要な要素となります。また、機体はステンレス鋼製で、空力加熱対策も施されています。このため、超音速飛行時の過酷な条件下でも耐えうる構造となっていました。

主翼は直線翼として設計され、これもまたM.52の独特な特徴です。直線翼は、超音速での運動性能を向上させる効果があります。これらの革新的な設計は、当時の航空機開発における挑戦的な試みを示しています。

計画の中止

しかし、第二次世界大戦が終結した後の1946年、イギリスの労働党アトリー政権による予算削減により、M.52の開発計画は中断されてしまいます。試作1号機が完成する前に計画が中止されたことは、多くの技術者や研究者にとって大きなショックでした。

この計画の中止に際して、アメリカ合衆国との技術交換契約が結ばれ、M.52のデータはベル社に提供されました。この協力により、ベルX-1の開発に重要な影響を与えたと言われています。音速を超える飛行を実現したX-1は、航空史における重要なマイルストーンとなりました。

無人実験機とその後

計画が中止された後も、M.52の技術は無駄にされませんでした。開発陣は、M.52の約三分の一のスケールで無人の無線操縦実験機を製作し、ロケット動力による飛行試験を行いました。この無人機は1947年にマッハ1.5を記録しましたが、残念ながら回収には至りませんでした。この飛行試験は、当時の技術がどれほど進んでいたかを示す貴重な記録となっています。

M.52の開発はその後も続かなかったものの、音速突破の試みは今後の航空機設計に多大な影響を与え、航空工学の発展の一助となりました。

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