マウアー (バーデン)

ドイツの小さな村、マウアー：ハイデルベルク人の発見地と豊かな歴史

ドイツ連邦共和国バーデン＝ヴュルテンベルク州ライン＝ネッカー郡に位置するマウアーは、人口約3800人の小さな村です。ライン＝ネッカー大都市圏に属し、ハイデルベルクとジンスハイムの中間に位置しています。エルゼンツ川の渓谷に沿って広がる、標高約130mから240mの穏やかな丘陵地帯に抱かれたこの村は、その静かなたたずまいとは裏腹に、非常に興味深い歴史と考古学的意義を秘めています。

古代からの歴史

マウアーの歴史は古く、1048年には「Muron」として初めて文献に記録されています。この名前は「壁」を意味すると言われますが、それが何を指すのかは現在も明らかになっていません。しかし、8世紀から9世紀頃には既にこの地域に人々が居住していたと考えられており、エルゼンツ渓谷周辺の他の集落も同時期に形成されたとされています。

中世には、シュタウフェン家のヴィンプフェン附属の帝国領となり、後にプファルツ選帝侯領に組み込まれました。1208年から1374年にかけては、マウアー家を領主として迎えていました。その後、婚姻や相続を通じて様々な貴族家（ローゼンベルク家、ニッペンブルク家、フェッヒェンバッハ家など）が領主権を握り、領地の支配は複雑な変遷を遂げていきます。1831年、ゲーラー・フォン・ラーフェンスブルク男爵が最後の領主となりました。

1522年には宗教改革が導入され、三十年戦争（1618-1648）ではバイエルン軍やスウェーデン軍の略奪を受け、1689年には完全に焼き払われるという悲劇に見舞われました。中世後期には水城も存在していましたが、1778年に焼失しています。

1780年頃、ネッカーゲミュントからハイルブロンへの幹線道路が拡張されたことで、マウアーは大きな発展を遂げました。かの有名なゲーテも1797年にスイスへの旅の途中でこの地を訪れ、詩を詠んだと伝えられています。

ハイデルベルク人の発見

マウアーのもう一つの重要な特徴は、古人類学における重要な発見です。1584年から続けられていた砂の採取によって、多くの採砂溝が掘られました。そして1907年、グラーフェンライン採砂溝において、ダニエル・ハルトマンによって60万年以上前のハイデルベルク人（Homo heidelbergensis）の下顎骨が発見されたのです。この発見は、世界中から注目を集め、マウアーを国際的に知られる町にしました。

この下顎骨は、何メートルもの堆積物層から発見されたため、ハイデルベルク人がこの場所で生活していたとは考えられていません。50万年前には現在の川筋とは異なる場所を流れていた原-ネッカー川が、大量の砂や砂利とともにこの化石を運んできて堆積させたものと考えられています。この採砂溝からは、ハイデルベルク人の化石以外にも多くの動物化石が発掘されており、当時の環境を知る上で貴重な情報源となっています。砂の採取は1960年代まで続けられました。

近現代の歴史と発展

1803年にはバーデン領となり、その後も行政管轄区域の変更を繰り返しながら、現在に至ります。19世紀にはエルゼンツ川の洪水に悩まされましたが、1862年の鉄道開通や1898年のハイデルベルクへの通勤列車の運行開始によって、交通の便は大きく改善されました。1902年には電灯が導入され、1920年頃からは自動車の普及が始まりました。

第二次世界大戦後は、東プロイセン、シレジア、ズデーテン地方からの多くの難民を受け入れ、人口が増加しました。1994年にはエルゼンツ渓谷全体を襲った大洪水に見舞われましたが、その後の治水対策やバイパスの建設によって、町の安全と発展は確保されています。現在も新しい住宅地が造成され、人口増加が続いています。

文化と見所

マウアーには、1876年建造のカトリックの聖バルトロモイス教会、1896年建造のプロテスタント教会などの歴史的な建造物が存在します。1788年建造の休息用の小城ゾルゲンフライも、エルゼンツ川を見下ろす美しい景観の中にあります。町の中心部には、ヘイトシェス・ハウスという印象的な木組み建築があり、内部には図書館とハイデルベルク人の展示室が設けられています。グラーフェンライン採砂溝は自然公園内にあり、ハイデルベルク人の発見地として重要な場所ですが、現在は立ち入りが制限されています。

このように、マウアーは小さな村ながら、その歴史と考古学的発見によって大きな魅力を持つ場所です。ハイデルベルク人という人類史上の重要な発見の地を訪れ、古き良きドイツの風景と歴史に触れてみるのも良いでしょう。

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