マウイ (ポリネシア神話)

ポリネシア神話における英雄、マウイ

マウイは、ポリネシア神話において中心的な存在である半神英雄です。ニュージーランドのマオリ族をはじめ、ハワイ、タヒチ、サモアなど、ポリネシア各地に伝わる神話において、彼は世界創造に関わった偉大な存在として描かれています。それぞれの地域でマウイの物語は異なった形をとっていますが、共通して語られるのは、彼の並外れた力と、それゆえの悲劇的な最期です。

創造神としてのマウイ

マオリ族の神話では、マウイは黄泉の国の女神の孫として誕生します。闇夜に覆われた世界に光をもたらすため、マウイは海から空を持ち上げ、星々を飾り付けました。これが星空の起源とされています。さらに、彼は風をココヤシの中に閉じ込め、必要に応じて解き放つことで、風の力を制御しました。しかし、西風だけは逃れてしまったと伝えられています。

マウイの偉業はそれだけにとどまりません。彼は太陽の運行を管理し、それまで非常に短かった昼の時間を長くしました。また、海中から陸地を引き上げ、人々の生活の基盤となる島々を創造しました。さらに、先祖から火を盗み出し、人々に火の使用法を伝えました。これらの神話は、マウイが自然を操り、人々の生活を豊かにしたことを示しています。彼は単なる英雄ではなく、人々に恩恵をもたらす創造神としての側面も持ち合わせていたのです。

悲劇的な最期

ニュージーランドの神話では、マウイの最期が詳しく語られています。永遠の命を手に入れようと願ったマウイは、祖母であるヒネ・ヌイ・テ・ポの体内に侵入することを決意します。父からの警告にもかかわらず、マウイはイモムシの姿に変身し、祖母の体内に入ろうとします。しかし、その様子を見た鳥たちが笑い出したことで、ヒネはマウイの存在に気づき、膣にある石の歯で彼を砕いてしまいます。この物語は、マウイの並外れた力と野心、そしてその裏に潜む脆さを示しています。

マウイ神話の多様性

マウイ神話は、ポリネシア各地で様々なバリエーションで語り継がれています。それぞれの地域、それぞれの部族において、マウイの物語は独自の色合いを帯び、その土地の自然環境や文化と密接に結びついています。例えば、ハワイの神話では、マウイは漁師の神としても登場し、人々に豊かな漁獲をもたらしたと伝えられています。このように、マウイ神話は単一の物語ではなく、ポリネシア文化の多様性を反映した、いくつもの物語の集合体と言えるでしょう。

マウイ神話の現代的意義

マウイ神話は、単なる神話としてだけでなく、現代においても人々に様々な示唆を与え続けています。自然との共存、人間の限界、そして永遠の命への憧れなど、普遍的なテーマが込められたマウイの物語は、私たち自身の存在意義を問いかけるきっかけとなるでしょう。彼の偉大な業績と悲劇的な最期は、私たちに多くのことを語りかけてきます。

参考文献

後藤明『南島の神話』中央公論新社〈中公文庫BIBLIO〉、2002年、ISBN 978-4-12-203987-2

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