マウス肝炎

マウス肝炎（Mouse Hepatitis Virus Infection）

マウス肝炎は、マウス肝炎ウイルス（Mouse Hepatitis Virus, MHV）によって引き起こされる感染症です。このウイルスは、コロナウイルス科コロナウイルス属に分類されるRNAウイルスで、主にマウスやその近縁の齧歯類を自然宿主としています。

ウイルスの特徴

マウス肝炎ウイルスは、その名の通り、マウスの肝臓に感染し、増殖する特性を持っています。このウイルスは、エンベロープを持つ一本鎖のプラス鎖RNAウイルスであり、そのゲノムは比較的大きく、約30kbのサイズを持ちます。ウイルスの表面には、スパイクタンパク質が存在し、これが宿主細胞への結合と侵入に関与します。

感染経路と病態

マウス肝炎ウイルスの主な感染経路は、感染した動物との直接接触や、汚染された環境を介した経口感染です。感染したマウスでは、ウイルスは肝臓で増殖し、通常は不顕性感染（症状が現れない感染）として経過することが多いです。しかし、免疫抑制状態にある個体や、若齢のマウスにおいては、重篤な症状を引き起こすことがあります。具体的には、肝臓全体に壊死斑が広がり、急性肝炎を引き起こし、死亡するケースも報告されています。

症状

不顕性感染の場合、症状はほとんど見られません。しかし、重症化した場合、以下の症状が現れることがあります。

• - 食欲不振
• - 元気消失
• - 黄疸（肝機能の低下により皮膚や白目が黄色くなる）
• - 腹水（腹腔内に液体が貯留する）
• - 肝腫大（肝臓が腫れる）

診断と治療

マウス肝炎の診断は、病理検査やウイルス学的検査によって行われます。病理検査では、肝臓の組織に壊死や炎症が見られます。ウイルス学的検査では、PCR法やELISA法などを用いてウイルスRNAや抗体を検出します。

現状では、マウス肝炎ウイルスに対する特異的な治療法は確立されていません。対症療法が中心となり、脱水症状の緩和や栄養補給が行われます。重症例では、免疫グロブリンの投与や免疫抑制剤の使用が検討されることもあります。

予防

実験動物施設などでは、衛生管理を徹底し、感染源の侵入を防ぐことが重要です。具体的には、以下の対策が挙げられます。

• - マウスの健康状態の定期的なモニタリング
• - 新しく導入するマウスの検疫
• - 飼育環境の清掃と消毒
• - ウイルスの拡散を避けるための隔離

実験動物としての重要性

マウスは、生物医学研究において重要な実験動物であり、さまざまな疾患モデルとして利用されています。マウス肝炎ウイルス感染は、実験結果に影響を与える可能性があるため、研究者はこのウイルス感染に注意する必要があります。また、マウス肝炎ウイルスは、他の動物種やヒトには感染しないと考えられていますが、研究室においては感染防止対策を徹底する必要があります。

関連事項

• - 実験動物

参考文献

• - 清水悠紀臣ほか　『動物の感染症』　近代出版　2002年　ISBN 4874020747

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